星形領域上正則な関数の原始関数の存在

円板より広い領域として星形領域を考え、その上でも原始関数が存在することを示す。

星形領域

複素平面内の領域DDが星形領域であるとは、あるz0∈Dz_0\in Dが存在して、任意のz∈Dz\in Dに対しz0z_0とzzを結ぶ線分がDDに含まれることをいう。 このようなz0z_0をDDの中心という。

円板の内部や長方形の内部、より一般に凸領域は星形領域である。 凸でない例としては、複素平面から負の実軸を除いた領域C∖(−∞,0]\C\setminus(-\infty,0]がある。 これはz0=1z_0=1を中心とする星形領域だが凸ではない。 複素平面全体も星形領域である。

一方、円板から中心を除いた領域は星形領域ではない。

三角形に対するコーシーの積分定理

星形領域の議論では、中心から出る線分で作られる三角形を使う。 そのため、長方形ではなく三角形に対するコーシーの積分定理が必要になる。

三角形に対するコーシーの積分定理

T⊂CT\subset\Cを三角形(周と内部)とし、ffはTTを含む開集合で正則であるとする。 このとき

∫∂Tf(z)dz=0\int_{\partial T}f(z)dz=0

である。

証明は長方形の場合とまったく同じである。 三角形の各辺の中点を結ぶと44つの合同な相似三角形に分割され、内部に現れる辺は22回互いに逆向きに通るので

∫∂Tf(z)dz=∑i=14∫∂Tif(z)dz\int_{\partial T}f(z)dz=\sum_{i=1}^{4}\int_{\partial T_i}f(z)dz

が成り立つ。 そこで∣η(Ti)∣≥14∣η(T)∣\lvert\eta(T_i)\rvert\geq\frac{1}{4}\lvert\eta(T)\rvertとなるTiT_iを選んで縮小列を作り、 一次近似による評価∣η(S)∣≤ϵ d(S)L(S)\lvert\eta(S)\rvert\leq\epsilon\, d(S)L(S)と組み合わせればよい。 長方形の場合の証明で「長方形」をすべて「三角形」に置き換えれば、そのまま議論が通る。

原始関数の構成

星形領域に対するコーシーの積分定理

DDを中心z0z_0の星形領域とし、f:D→Cf:D\to\Cを正則関数とする。 このときffはDD上に一価正則な原始関数FFを持つ。

特にDD内の任意の閉曲線CCに対して

∫Cf(z)dz=0\int_Cf(z)dz=0

が成り立つ。

証明

z∈Dz\in Dに対し、z0z_0とzzを結ぶ線分[z0,z][z_0,z]はDDに含まれる。 そこで

F(z)=∫[z0,z]f(ζ)dζF(z)=\int_{[z_0,z]}f(\zeta)d\zeta

と定める。 線分は一意に定まるのでFFは一価である。 (FFは中心z0z_0の取り方には依存するが、定数の差だけなので原始関数であることには影響しない。)

F′(z)=f(z)F'(z)=f(z)を示す。 z∈Dz\in Dを固定し、zzを中心とする十分小さな円板B⊂DB\subset Dをとる。 w∈Bw\in Bに対し、33点z0,z,wz_0, z, wを頂点とする三角形をTTとする。

この三角形はDDに含まれる。 実際、線分[z,w][z,w]はBBに含まれるのでDDに含まれ、その各点ppに対し線分[z0,p][z_0,p]は星形性からDDに含まれる。 これらの線分の和集合がちょうど三角形TTだからである。

三角形に対するコーシーの積分定理により∫∂Tf(ζ)dζ=0\displaystyle\int_{\partial T}f(\zeta)d\zeta=0であり、∂T\partial Tは[z0,z][z_0,z]、[z,w][z,w]、[w,z0][w,z_0]をつないだものだから

∫[z0,z]f+∫[z,w]f−∫[z0,w]f=0\int_{[z_0,z]}f+\int_{[z,w]}f-\int_{[z_0,w]}f=0

すなわち

F(w)−F(z)=∫[z,w]f(ζ)dζF(w)-F(z)=\int_{[z,w]}f(\zeta)d\zeta

を得る。

ここでffはzzで連続だから、任意のϵ>0\epsilon>0に対しあるδ>0\delta>0があって、∣ζ−z∣<δ\lvert\zeta-z\rvert<\deltaならば∣f(ζ)−f(z)∣<ϵ\lvert f(\zeta)-f(z)\rvert<\epsilonである。 ∣w−z∣<δ\lvert w-z\rvert<\deltaのとき、∫[z,w]dζ=w−z\displaystyle\int_{[z,w]}d\zeta=w-zであることから

∣F(w)−F(z)−f(z)(w−z)∣=∣∫[z,w](f(ζ)−f(z))dζ∣≤ϵ∣w−z∣\left\lvert F(w)-F(z)-f(z)(w-z)\right\rvert =\left\lvert\int_{[z,w]}\bigl(f(\zeta)-f(z)\bigr)d\zeta\right\rvert \leq\epsilon\lvert w-z\rvert

となる。 両辺を∣w−z∣\lvert w-z\rvertで割ると

∣F(w)−F(z)w−z−f(z)∣≤ϵ\left\lvert\frac{F(w)-F(z)}{w-z}-f(z)\right\rvert\leq\epsilon

であり、ϵ\epsilonは任意だったから

lim⁡w→zF(w)−F(z)w−z=f(z)\lim_{w\to z}\frac{F(w)-F(z)}{w-z}=f(z)

である。 よってFFはzzで複素微分可能でF′(z)=f(z)F'(z)=f(z)である。 zzは任意だったからFFはDD上の原始関数である。

原始関数を持つ関数の閉曲線に沿った積分は00であったから、定理の後半も従う。

ここまでのまとめ

長方形・三角形に対するコーシーの積分定理を出発点として、星形領域上で原始関数が構成でき、そこから閉曲線に沿った積分が00になることが分かった。

星形領域まで示せれば、円周に対するコーシーの積分公式を証明するには十分である。 実際、22つの同心円にはさまれた領域を半分に区切ると、それぞれは星形領域に含まれるように取れるので、円周の半径を変えても積分値が変わらないことが従う。

次の記事では、領域と閉曲線に対する条件を回転数を用いて位相幾何的に定式化し、より一般的な形のコーシーの積分定理を述べる。