原始関数の存在と閉曲線での線積分
コーシーの積分定理の証明の鍵は原始関数の存在である。 が原始関数を持てば、線積分は経路によらず端点だけで決まり、閉曲線に沿った積分はになる。 これは領域の形にも曲線の形にもよらずに成り立つ。
なお、この節ではの正則性は仮定しない。 が連続であることと、原始関数が存在することだけが必要である。 連続性は、線積分がそもそも連続関数に対して定義されていることと、下の証明で微積分学の基本定理を使うために要る。
原始関数と経路によらない積分
領域上の連続関数に対し、上の一価正則関数で
を満たすものをの原始関数という。
を上の連続関数とし、上に原始関数を持つとする。 このとき内の区分的級曲線に対し
が成り立つ。 ここではそれぞれの始点と終点である。
特に積分の値は端点のみで決まり、途中の経路によらない。
証明
曲線のパラメータづけをとすると、合成関数の微分から
である。 よって微積分学の基本定理から
となる。
が上に原始関数を持つとき、内の任意の閉曲線に対し
が成り立つ。
閉曲線では始点と終点が一致するので、上の定理から直ちに従う。
逆に、内の任意の閉曲線に沿った積分がならば、積分は経路によらない。 実際、からへのつの曲線に対し、とをつないだものは閉曲線であり
となるからである。 つまり「経路によらない」ことと「閉曲線での積分が」であることは同値である。
さらに逆向きの構成もできる。 を領域とし、を上の連続関数とする。 内の任意の閉曲線に沿った積分がならば、を固定して
(積分は内の任意の経路に沿ってとる)と定めることでの原始関数が得られる。 積分が経路によらないのでは一価に定まり、の連続性からが従う。 この構成は次の記事以降、円板や星形領域に対して実際に使う。
まとめると、上の連続関数について次の三つは同値である。
- は上に原始関数を持つ
- 線積分が経路によらず端点のみで決まる
- 内の任意の閉曲線に沿った積分が
これは実ベクトル場に対するポテンシャルの存在と同じ構図である。 保存力場では仕事が経路によらず、閉じた経路に沿った仕事がになるのと対応している。
原始関数を持たない例
原始関数の存在は領域の形に依存する。
を上で考えよう。 線積分の計算例で見たように、単位円周に沿って
である。 したがっては上に一価正則な原始関数を持たない。
形式的な原始関数の候補はだが、これは上で一価にならない。 一方、負の実軸を除いた領域のように原点の周りを回れない領域に制限すれば、の分枝が一価正則に定まり、原始関数となる。
このように、同じ関数でも定義域の形によって原始関数を持ったり持たなかったりする。 次の記事以降では、長方形・円板・星形領域と領域の形を限定することで原始関数の存在を示し、コーシーの積分定理を段階的に証明していく。
曲線の連続変形と線積分
コーシーの積分定理のもう一つの言い換えとして、積分路の連続変形がある。
始点と終点が一致し、それ以外に自己交差を持たない閉曲線を単純閉曲線という。
領域内のつの閉曲線が内で連続変形できるとは、内に留まったままを連続的に動かしてに重ねられることをいう。
がで正則であり、とが内で連続変形できるならば
が成り立つ。
直感的には、変形の途中で通過する領域を細かく分割し、各小片で原始関数の存在を使えばよい。 この見方は、円周の半径を変えても積分値が変わらないことを示す場面などで繰り返し使うことになる。