正則関数の定義
まずは正則関数の定義を確認しよう。
定義域についての言葉を先に決めておく。
領域
空でない連結開集合Ω⊂Cを領域という。
ここでΩが連結であるとは、Ωを互いに交わらない2つの空でない開集合に分けられないことをいう。
同じことだが、Ωの相対位相で開かつ閉であるような部分集合がΩ自身と∅のみである、とも言い換えられる。
直感的には、Ωが途中で切れておらず一つながりになっているということである。
以後、関数の定義域としては領域をとることが多い。
連結性は、一致の定理や最大値の原理のように「局所的な情報が全体に広がる」型の定理で効いてくる。
複素微分可能性と正則性
aを含む開集合で定義された関数fに対し、極限
f′(a)=h→0limhf(a+h)−f(a)が存在するとき、fはaで複素微分可能といい、その極限値f′(a)をaにおける微分係数という。
開集合D⊂Cを定義域にもつ関数f:D→Cが正則であるとは、Dの各点で複素微分可能であることをいう。
ここで右辺の極限は、hが複素数の範囲で0に近づくどの近づき方についても同じ値に収束することを要求している。
これは開集合U⊂Rを定義域にもつ関数f:U→Rの微分係数の定義
f′(a)=h→0limhf(a+h)−f(a)
と式の形はまったく同じである。
異なるのはh→0の近づき方で、Rの場合は左右の二方向しかないのに対し、Cの場合はあらゆる方向から、さらに螺旋を描くような近づき方まで許される。
すべての近づき方で同じ値に収束せよという要求は、実関数の場合よりはるかに強い条件である。
一点での微分可能性と正則性の違い
正則性は「一点で複素微分可能」ではなく「開集合の各点で複素微分可能」として定義されていることに注意しよう。
この区別は実関数の場合よりも重要である。
実関数では、一点でのみ微分可能な関数が存在する。
例えばf(x)=x2(xが有理数のとき)、f(x)=0(xが無理数のとき)で定めた関数はx=0でのみ微分可能である。
複素関数でも同様に、一点でのみ複素微分可能な関数を作ることはできる。
しかし複素解析で得られる強力な定理は、どれも開集合上での正則性を仮定している。
例えば正則関数が何回でも微分可能であることや、冪級数に展開できることは、後にコーシーの積分公式から導かれるが、これらは一点での微分可能性からは決して従わない。
正則関数の理論が実関数の微分積分と大きく異なる姿を見せるのは、この「開集合上で」という条件によるところが大きい。
一点でのみ複素微分可能な関数
f(z)=∣z∣2はz=0でのみ複素微分可能であることを示せ。
解答
f(z)=zzˉである。
aにおける差分商を計算すると
hf(a+h)−f(a)=h(a+h)(aˉ+hˉ)−aaˉ=ahhˉ+aˉ+hˉとなる。
h→0のときhˉ→0だが、hhˉは近づけ方によって変わる。
hを実数とすればhhˉ=1、純虚数とすれば−1である。
したがって極限が存在するのはa=−aすなわちa=0のときに限り、そのときf′(0)=0である。
z=0の近傍のどこを取っても0以外の点では微分可能でないので、fはどの開集合の上でも正則にならない。
「一点で複素微分可能」と「開集合上で正則」の違いを示す例である。
偏導関数がすべて消えても複素微分可能とは限らない
f(x+iy)=x2+y2xy(z=0),f(0)=0とする。
fは原点で連続で、原点における偏導関数がすべて0になるが、複素微分可能でないことを示せ。
解答
連続性。 ∣xy∣≤2x2+y2であるから
∣f(z)∣≤2x2+y2x2+y2=2∣z∣であり、z→0でf(z)→0=f(0)である。
偏導関数。 f(x,0)=0、f(0,y)=0であるから
∂x∂f(0)=∂y∂f(0)=0である。
複素微分可能でないこと。 対角線y=x(x>0)に沿ってz=x(1+i)と近づけると
f(z)=2x2x2=2xであるから
z−0f(z)−f(0)=x(1+i)x/2=2(1+i)1となり、x→+0でも0に収束しない。
一方、実軸方向に近づければ差分商は0である。
よって極限は存在せず、複素微分可能でない。
偏導関数がすべて存在して0になっても、微分可能性は従わない。
2つの軸方向だけを見ても足りない、という点が要点である。