正則関数の例と初等関数の正則性

それでは正則関数の例について見ていこう。

多項式と有理式

f(z)=z2f(z)=z^2の一次近似

f(z)=z2f(z)=z^2はz=αz=\alphaの周りで一次式α2+2α(z−α)\alpha^2+2\alpha(z-\alpha)で近似できる。 実際、

z2−(α2+2α(z−α))=(z−α)2z^2-\bigl(\alpha^2+2\alpha(z-\alpha)\bigr)=(z-\alpha)^2

であり、右辺はz→αz\to\alphaで∣z−α∣\lvert z-\alpha\rvertよりも速く00に近づく。

f(z)=z2f(z)=z^2によって実軸に平行な直線や虚軸に平行な直線がどのようにうつるかを図示して、この近似の様子を確かめてみよう。

znz^nの正則性

nnを正の整数とすると、f(z)=znf(z)=z^nはC\C全体で正則であり、f′(z)=nzn−1f'(z)=nz^{n-1}である。 n=0n=0のときはf(z)=1f(z)=1という定数関数で、f′(z)=0f'(z)=0である。

n=0n=0を別扱いにしたのは、nzn−1nz^{n-1}がz=0z=0でそのまま評価できないためである。

証明

二項定理により

(z+h)n−znh=1h∑k=1n(nk)zn−khk=nzn−1+∑k=2n(nk)zn−khk−1\frac{(z+h)^n-z^n}{h}=\frac{1}{h}\sum_{k=1}^n\binom{n}{k}z^{n-k}h^k =nz^{n-1}+\sum_{k=2}^n\binom{n}{k}z^{n-k}h^{k-1}

である。 右辺の第二項はh→0h\to0で00に収束するから、極限はnzn−1nz^{n-1}となる。

正則関数の四則演算

f,gf, gがaaで複素微分可能ならば、f+gf+gとfgfgもaaで複素微分可能で

(f+g)′(a)=f′(a)+g′(a),(fg)′(a)=f′(a)g(a)+f(a)g′(a)(f+g)'(a)=f'(a)+g'(a),\quad (fg)'(a)=f'(a)g(a)+f(a)g'(a)

が成り立つ。 さらにg(a)≠0g(a)\neq0ならばf/gf/gもaaで複素微分可能で

(fg)′(a)=f′(a)g(a)−f(a)g′(a)g(a)2\left(\frac{f}{g}\right)'(a)=\frac{f'(a)g(a)-f(a)g'(a)}{g(a)^2}

である。

合成関数の微分

ggがaaで、ffがg(a)g(a)で複素微分可能ならば、合成f∘gf\circ gもaaで複素微分可能で

(f∘g)′(a)=f′(g(a))g′(a)(f\circ g)'(a)=f'(g(a))g'(a)

が成り立つ。

四則演算と合成関数については、証明は実関数の場合とまったく同じ式変形でできる。 極限の性質として使うのは和・積・商の極限の計算だけで、これらは複素数の範囲でも同様に成り立つからである。

逆関数については事情が少し異なる。

逆関数の微分

ffがaaの近くで正則でf′(a)≠0f'(a)\neq0とする。 このときaaの十分近くでffは単射であり、その像の上に連続な逆関数f−1f^{-1}が定まる。 このf−1f^{-1}はf(a)f(a)で複素微分可能で

(f−1)′(f(a))=1f′(a)(f^{-1})'(f(a))=\frac{1}{f'(a)}

が成り立つ。

微分可能性そのものは、z=f−1(w)z=f^{-1}(w)とおいたときの差分商

f−1(w)−f−1(f(a))w−f(a)=(f(z)−f(a)z−a)−1\frac{f^{-1}(w)-f^{-1}(f(a))}{w-f(a)}=\left(\frac{f(z)-f(a)}{z-a}\right)^{-1}

から従う。 ただしここでw→f(a)w\to f(a)のときz→az\to aとなることを使っており、これはf−1f^{-1}の連続性である。 つまり和・積・商の極限だけでは済まず、局所的な逆関数の存在と連続性が別に要る。

この存在と連続性はここでは認めて先に進む。 実関数の逆関数定理に対応するもので、正則関数の場合は後に偏角の原理から導くこともできる。

四則演算の公式を合わせると、多項式と有理式の正則性が従う。

多項式と有理式の正則性

zzについての多項式はC\C全体で正則である。 zzについての有理式は、分母が00になる点を除いて正則である。

正則でない関数

それでは正則でない関数にはどのようなものがあるだろうか。

f(z)=zˉf(z)=\bar{z}は正則でない

f(z)=zˉf(z)=\bar{z}はC\Cのどの点でも複素微分可能でない。

まず直感的な説明をしよう。 f(z)f(z)が一次式az+baz+bで近似できるのであれば、a≠0a\neq0のとき近似は回転拡大と平行移動の合成であり、実軸と虚軸のなす角は向きも込めて保たれる。 ところがf(z)=zˉf(z)=\bar{z}は実軸に関する鏡映なので、実軸と虚軸のなす角の向きが逆になってしまう。 よって複素係数の一次式では近似できない。

実二変数関数として見ると、f(x+iy)=x−iyf(x+iy)=x-iyを近似する行列は

A=(100−1)A=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}

である(この場合は近似ではなく一致する)。 これは複素数倍を表す行列の形(a−bba)\begin{pmatrix}a&-b\\b&a\end{pmatrix}になっていない。 つまりffは実二変数関数としては微分可能だが、複素関数としては微分可能でない。 これが実微分可能性と複素微分可能性の違いを示す典型例である。

定義に直接基づいた証明も与えておこう。

証明

hhが実数として近づく場合と、純虚数として近づく場合で極限値が異なることを示す。 z=x+iyz=x+iyとする。

hhを実数として00に近づけると

lim⁡h→0, h∈Rz+h‾−zˉh=lim⁡h→0, h∈R(x+h−iy)−(x−iy)h=1\lim_{h\to0,\ h\in\R}\frac{\overline{z+h}-\bar{z}}{h} =\lim_{h\to0,\ h\in\R}\frac{(x+h-iy)-(x-iy)}{h}=1

である。 一方、h=ikh=ik(kkは実数)として00に近づけると

lim⁡k→0, k∈Rz+ik‾−zˉik=lim⁡k→0, k∈R(x−i(y+k))−(x−iy)ik=−1\lim_{k\to0,\ k\in\R}\frac{\overline{z+ik}-\bar{z}}{ik} =\lim_{k\to0,\ k\in\R}\frac{(x-i(y+k))-(x-iy)}{ik}=-1

である。 近づけ方によって極限値が異なるので、ffはzzで複素微分可能でない。 zzは任意だったから、ffはどの点でも複素微分可能でない。

∣z∣\lvert z\rvert の非可微分性

f(z)=∣z∣f(z)=\lvert z\rvertはC\Cのどの点でも複素微分可能でないことを示せ。

ヒント:z≠0z\neq0の場合とz=0z=0の場合を分ける。 どちらも、実軸方向と虚軸方向から近づけた差分商を比べればよい。

解答

z=0z=0の場合。 差分商は∣h∣−0h=∣h∣h\dfrac{\lvert h\rvert-0}{h}=\dfrac{\lvert h\rvert}{h}である。 hhを正の実数として00に近づけると値は11、hhを正の虚数itit(t>0t>0)として近づけるとtit=−i\dfrac{t}{it}=-iである。 異なるので微分可能でない。

z≠0z\neq0の場合。 a≠0a\neq0とし、まず実軸方向、すなわちhhを実数として近づける。 ∣z∣\lvert z\rvertをz=x+iyz=x+iyの関数とみるとx2+y2\sqrt{x^2+y^2}なので、a=α+iβa=\alpha+i\betaに対し

lim⁡h→0, h∈R∣a+h∣−∣a∣h=∂∂xx2+y2∣(α,β)=α∣a∣\lim_{h\to0,\,h\in\R}\frac{\lvert a+h\rvert-\lvert a\rvert}{h} =\frac{\partial}{\partial x}\sqrt{x^2+y^2}\Big\vert_{(\alpha,\beta)}=\frac{\alpha}{\lvert a\rvert}

である。 次に虚軸方向、h=ith=it(ttは実数)として近づけると

lim⁡t→0∣a+it∣−∣a∣it=1i⋅∂∂yx2+y2∣(α,β)=1i⋅β∣a∣=−iβ∣a∣\lim_{t\to0}\frac{\lvert a+it\rvert-\lvert a\rvert}{it} =\frac{1}{i}\cdot\frac{\partial}{\partial y}\sqrt{x^2+y^2}\Big\vert_{(\alpha,\beta)} =\frac{1}{i}\cdot\frac{\beta}{\lvert a\rvert}=-i\frac{\beta}{\lvert a\rvert}

である。

この22つが一致するにはα∣a∣=−iβ∣a∣\dfrac{\alpha}{\lvert a\rvert}=-i\dfrac{\beta}{\lvert a\rvert}、すなわちα=−iβ\alpha=-i\betaが要る。 α,β\alpha,\betaは実数なので、これはα=β=0\alpha=\beta=0すなわちa=0a=0のときしか起こらない。 仮定に反するので微分可能でない。

∣z∣\lvert z\rvertは実数値関数であり、定数でない実数値の正則関数は存在しない。 このことはコーシーリーマンの方程式からも分かる。

初等関数の正則性

前のセクションで定義した指数関数・三角関数と対数関数・冪乗関数の正則性を調べよう。

指数関数

指数関数の正則性

exp⁡(z)\exp(z)はC\C全体で正則であり、

(exp⁡z)′=exp⁡z(\exp z)'=\exp z

が成り立つ。

証明

指数法則exp⁡(z+h)=exp⁡(z)exp⁡(h)\exp(z+h)=\exp(z)\exp(h)より

exp⁡(z+h)−exp⁡(z)h=exp⁡(z)⋅exp⁡(h)−1h\frac{\exp(z+h)-\exp(z)}{h}=\exp(z)\cdot\frac{\exp(h)-1}{h}

である。 よってh→0h\to0でexp⁡(h)−1h→1\dfrac{\exp(h)-1}{h}\to1、すなわち原点での微分可能性を示せばよい。

h=s+ith=s+itとおき、定義exp⁡(h)=es(cos⁡t+isin⁡t)\exp(h)=e^s(\cos t+i\sin t)に実関数の00における近似

es=1+s+o(∣h∣),cos⁡t=1+o(∣h∣),sin⁡t=t+o(∣h∣)e^s=1+s+o(\lvert h\rvert),\qquad \cos t=1+o(\lvert h\rvert),\qquad \sin t=t+o(\lvert h\rvert)

を代入する。 ∣s∣,∣t∣≤∣h∣\lvert s\rvert,\lvert t\rvert\leq\lvert h\rvertなので、いずれの誤差もo(∣h∣)o(\lvert h\rvert)と書いてよい。 展開すると

exp⁡(h)=(1+s+o(∣h∣))(1+it+o(∣h∣))=1+s+it+o(∣h∣)=1+h+o(∣h∣)\exp(h)=\bigl(1+s+o(\lvert h\rvert)\bigr)\bigl(1+i t+o(\lvert h\rvert)\bigr)=1+s+it+o(\lvert h\rvert)=1+h+o(\lvert h\rvert)

となる。 したがって

exp⁡(h)−1h=1+o(∣h∣)h→1\frac{\exp(h)-1}{h}=1+\frac{o(\lvert h\rvert)}{h}\to1

であり、求める極限はexp⁡(z)\exp(z)となる。

この証明で使ったのは、第2章で採った定義exp⁡(x+iy)=ex(cos⁡y+isin⁡y)\exp(x+iy)=e^x(\cos y+i\sin y)と、実関数es,cos⁡t,sin⁡te^s,\cos t,\sin tの原点での微分だけである。 指数関数の冪級数展開は、いま示したexp⁡′=exp⁡\exp'=\expを使って第7章の代表的な冪級数展開で計算する。

三角関数

三角関数は指数関数を用いて

cos⁡z=eiz+e−iz2,sin⁡z=eiz−e−iz2i\cos z = \dfrac{e^{iz}+e^{-iz}}{2},\quad \sin z = \dfrac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i}

と定義した。

指数関数が正則であることと、正則関数の和が正則であることから、三角関数もC\C全体で正則である。 また、合成関数の微分により(eiz)′=ieiz(e^{iz})'=ie^{iz}、(e−iz)′=−ie−iz(e^{-iz})'=-ie^{-iz}であることから

(cos⁡z)′=−sin⁡z,(sin⁡z)′=cos⁡z(\cos z)'=-\sin z,\quad (\sin z)'=\cos z

と、実関数の場合と同じ公式が得られる。

ここで注意しておきたいことがある。 複素数への拡張の仕方は一見すると何通りもありそうだが、実は正則性を要求すると一通りしかない。 後ほど証明する一致の定理によれば、二つの正則関数f,gf, gが実軸上で一致するならばf=gf=gである。 したがって実関数としてのcos⁡,sin⁡\cos, \sinを正則関数に拡張する方法は、存在すれば唯一である。

対数関数

対数関数log⁡z=log⁡∣z∣+iarg⁡z\log z=\log\lvert z\rvert+i\arg zは多価関数であった。 実際、z=1z=1でθ=0\theta=0と選んで単位円周を反時計回りに一周してみよう。 このとき∣z∣=1\lvert z\rvert=1は一定で、θ\thetaを連続的に増加させると、一周してz=1z=1に戻ったときにはθ=2π\theta=2\piになっている。 つまりC∖{0}\C\setminus\{0\}の上で一価連続な関数としてlog⁡z\log zを定めることはできない。 この不定性はz=0z=0の周りを回ることによって生じている。

そこで原点から出る半直線を一本除いて定義域を制限すれば、その上で一価正則な関数が定まる。 例えば負の実軸を除いた領域C∖(−∞,0]\C\setminus(-\infty,0]の上で−π<arg⁡z<π-\pi<\arg z<\piと定めたものを主枝という。

対数関数の正則性

原点から出る半直線を除いた領域上で分枝を一つ選ぶと、log⁡z\log zはその領域で正則であり

(log⁡z)′=1z(\log z)'=\frac{1}{z}

が成り立つ。

証明

選んだ分枝のw=log⁡zw=\log zは、その領域の上で連続なz=exp⁡(w)z=\exp(w)の逆関数である。 逆関数の微分公式により

(log⁡z)′=1(exp⁡w)′=1exp⁡w=1z(\log z)'=\frac{1}{(\exp w)'}=\frac{1}{\exp w}=\frac{1}{z}

となる。

実関数の対数関数の微分が1x\dfrac{1}{x}であったことから∫1x1tdt=log⁡x\displaystyle\int^x_1\frac{1}{t}dt=\log xであった。 同様の計算を複素数の範囲で行うと、上で見た多価性のために積分の値が一意に定まらないように思える。 これは後に複素線積分とコーシーの積分定理を学ぶと、

log⁡z=∫1z1tdt\log z=\int^z_1\frac{1}{t}dt

の値が積分経路によって変化するという現象として理解できる。

冪乗関数

冪乗関数はzα=exp⁡(αlog⁡z)z^\alpha=\exp(\alpha\log z)と定義した。 対数関数が多価であったからzαz^\alphaも一般には多価である。

冪乗関数の正則性

log⁡z\log zの分枝を一つ選んだ領域の上でzα=exp⁡(αlog⁡z)z^\alpha=\exp(\alpha\log z)は正則であり

(zα)′=αzα−1(z^\alpha)'=\alpha z^{\alpha-1}

が成り立つ。

証明

合成関数の微分により

(zα)′=exp⁡(αlog⁡z)⋅αz=αzαz=αzα−1(z^\alpha)'=\exp(\alpha\log z)\cdot\frac{\alpha}{z}=\frac{\alpha z^\alpha}{z}=\alpha z^{\alpha-1}

となる。 ここでzαz=exp⁡(αlog⁡z)exp⁡(−log⁡z)=exp⁡((α−1)log⁡z)=zα−1\dfrac{z^\alpha}{z}=\exp(\alpha\log z)\exp(-\log z)=\exp((\alpha-1)\log z)=z^{\alpha-1}を用いた。

α\alphaが00以上の整数のときは多価性が消え、C\C全体で正則な関数znz^nと一致する。 α\alphaが負の整数のときはz=0z=0を除いて正則である。 それ以外のα\alphaについては、分枝を選ばなければ一価な関数にならないことに注意しよう。