対数関数と冪乗関数

対数関数

複素数に対する対数関数を定義しよう。 実数の範囲では、指数関数の逆関数として定義できた。 これは、異なる実数x,yx, yに対してはexe^xとeye^yが異なるためである。

一方で複素数の範囲では、指数関数が複数の複素数で同じ値をとる。 なので、逆関数が直ちには定義できない。

しかし、多価関数としては以下のように定義することができる。

指数関数は、z=x+yiz=x+yiに対して

exp⁡(z)=ex(cos⁡y+isin⁡y)=excos⁡y+iexsin⁡y \exp(z)=e^x(\cos y+i\sin y)=e^x\cos y +i e^x\sin y

と定義された。

w=exp⁡(z)w=\exp(z)をzzについて解くことでz=log⁡wz=\log wを定める。 z=x+yiz=x+yiとし、w=u+viw=u+viとして、x,yx, yについて解けばよい。

u+iv=excos⁡y+iexsin⁡y u+iv = e^x\cos y +i e^x\sin y

であるので、

u=excos⁡y,v=exsin⁡y u=e^x\cos y, v = e^x\sin y

である。

u2+v2=e2x(cos⁡2y+sin⁡2y)=e2x u^2+v^2=e^{2x}(\cos^2y+\sin^2y)=e^{2x}

であるので、

x=log⁡u2+v2 x=\log\sqrt{u^2+v^2}

である。ただし、ここのlog⁡\logは実関数としての対数関数である。

また、

vu=sin⁡ycos⁡y=tan⁡y \frac{v}{u}=\frac{\sin y}{\cos y}=\tan y

である。 vu\dfrac{v}{u}は複素平面で言えば原点とwwを結ぶ線分の傾きであり、wwの偏角をθ\thetaとすればこの傾きはtan⁡θ\tan\thetaであったから、

y=arg⁡(w) y=\arg(w)

である。

ただしtan⁡y=vu\tan y=\dfrac{v}{u}だけではyyはπ\piの不定性までしか決まらない。 u=excos⁡yu=e^x\cos y、v=exsin⁡yv=e^x\sin yとex>0e^x>0からcos⁡y\cos yとsin⁡y\sin yの符号が分かるので、それで象限を決める。 u=0u=0のときはtan⁡y\tan yが使えないので、vvの符号からy=±π2y=\pm\dfrac{\pi}{2}と直接定める。 ただし、これは一意に決まらないことに注意する。

つまり、

log⁡(w)=log⁡∣w∣+iarg⁡w\log(w)=\log\lvert w\rvert+i\arg w

であることがw=exp⁡(z)w=\exp(z)であることと同値である。

負の実軸を除いた領域で−π<arg⁡z<π-\pi<\arg z<\piと定めた分枝を主値といい、Log⁡z\operatorname{Log} zと大文字で書く。 以後、分枝を特定したい場面ではこの記号を使う。

極形式z=r(cos⁡θ+isin⁡θ)z=r(\cos\theta+i\sin\theta)を用いると

log⁡(z)=log⁡r+iθ \log(z)=\log r+i\theta

である。

ただし、偏角θ\thetaは一意には定まらないことに注意しよう。 複素数においては対数関数は多価関数となる。 このことはこの先に学ぶ線積分を通しても理解できる。

冪乗関数

複素数の複素数乗を定義しよう。 対数関数を用いて次のように定義する。

一般のα\alphaに対し、

zα=exp⁡(αlog⁡z) z^\alpha=\exp(\alpha\log z)

と定義する。

対数関数が多価関数であったことから、f(z)=zαf(z)=z^\alphaも一般には多価関数となることに注意せよ。 ただし、exp⁡\expが周期関数であることにより、α\alphaの値によってはαlog⁡z\alpha\log zの多価性が消える場合がある。 α\alphaが整数であれば一価正則に定まる。 有理数であれば有限通りの不定性がある。

例えばf(z)=z=z1/2f(z)=\sqrt{z}=z^{1/2}は、上の対数関数と同様にC\C上で一価正則な関数として定義することはできない。

指数が複素数の冪乗は注意して計算する必要がある。 次の計算がどこがおかしいか考えよ。

−1=(−1)2=−1×−1=(−1)2=1=1 -1 = (\sqrt{-1})^2 = \sqrt{-1} \times \sqrt{-1} = \sqrt{(-1)^2} = \sqrt{1} = 1

実数x>0x>0に対するx\sqrt{x}は、二つある実平方根のうち正の方をとることで定まる。 x=0x=0の平方根は00ただ一つである。 こうしてx≥0x\geq0に対して一斉にx\sqrt{x}を定めることができ、これが連続関数となっていた。

複素数に対しては、二つある平方根のうち、例えば偏角が00以上π\pi未満の方をとることにすると、一斉にz\sqrt{z}を定めることができるが、 これは連続関数とはならない。 単位円周に沿って一周連続的にz\sqrt{z}の値を変化させるとどうなるかを考えよう。

なお複素対数log⁡z\log zおよび一般の複素冪zαz^\alphaは、まずz≠0z\neq0に対して定義されることに注意する。 原点を含む開近傍へ一価正則に延長できるのは、α\alphaが非負整数の場合だけである。 α=0\alpha=0ならzα≡1z^\alpha\equiv1であり、これも原点を込めて正則であることに注意しよう。

「延長できる」を単に連続に延長できるという意味にとると、主張は変わる。 切断を入れた領域上のz\sqrt zは、原点での値を00と定めれば連続に延長できるからである。 一価正則な延長を要求していることが効いている。

対数の全ての値

log⁡1\log 1とlog⁡(−1)\log(-1)の値をすべて求めよ。

解答

log⁡w=log⁡∣w∣+iarg⁡w\log w=\log\lvert w\rvert+i\arg wであり、arg⁡\argには2π2\piの整数倍の不定性がある。

w=1w=1のとき∣w∣=1\lvert w\rvert=1、arg⁡w=2πn\arg w=2\pi n(nnは整数)であるから

log⁡1=2πni\log 1=2\pi ni

である。n=0n=0が主値00にあたる。

w=−1w=-1のとき∣w∣=1\lvert w\rvert=1、arg⁡w=π+2πn\arg w=\pi+2\pi nであるから

log⁡(−1)=(2n+1)πi\log(-1)=(2n+1)\pi i

である。

ただしLog⁡(−1)\operatorname{Log}(-1)は定義されないことに注意しよう。 主分枝は負の実軸を除いた領域で定めたので、−1-1はその定義域に入っていない。 切断の上側から近づいた境界値はπi\pi i、下側からは−πi-\pi iであり、一つに定まらない。 これが負の実軸を除いた理由である。

実数の範囲ではlog⁡(−1)\log(-1)は定義されなかったが、複素数の範囲では値を持つ。 ただし一つには定まらない。

平方根の一周による符号変化

z=1z=1で1=1\sqrt{1}=1と選び、単位円周に沿って反時計回りに一周しながらz\sqrt{z}の値を連続的に追跡する。 出発点に戻ったときの値を求めよ。

解答

単位円周上でz=eiθz=e^{i\theta}とし、θ\thetaを00から2π2\piまで連続的に動かす。

z=eiθ/2\sqrt{z}=e^{i\theta/2}

と連続に追跡できる。

θ=0\theta=0では11、θ=2π\theta=2\piではeiπ=−1e^{i\pi}=-1である。 つまり一周して同じ点z=1z=1に戻っても、z\sqrt{z}の値は−1-1になり元に戻らない。

これがz\sqrt{z}をC∖{0}\C\setminus\{0\}上で一価連続に定められない理由である。 log⁡z\log zが一周で2πi2\pi iずれることに対応しており、z=exp⁡(12log⁡z)\sqrt{z}=\exp\left(\frac{1}{2}\log z\right)の指数がπi\pi iだけずれるためである。