多価関数を含む定積分

この記事では、分枝を選ばないと一価にならない関数の積分を22つ扱う。 メリン変換からガンマ関数の相補公式を導く鍵穴型の計算と、区間[a,b][a,b]を切断とする平方根の計算である。

どちらも手順は共通している。

  1. 分枝を決める:偏角の範囲と切断を指定し、一価正則な関数を作る
  2. 切断の上下での境界値を求める:切断を挟んで値がどれだけずれるかを見る
  3. 円弧の寄与を評価する:MLML評価で、消える項と残る項を区別する
  4. 残りを足し合わせる:上下の境界値の差から求める積分を取り出す

円弧の扱いは22つの例で異なる。 鍵穴型では大円・小円の積分がどちらも消えるが、平方根の例では端点の小円弧だけが消え、大円の寄与2πi2\pi iは残って最終結果を作る。

鍵穴型の積分路

複素数ssに対し、zsz^sを単位円周で積分することを考えよう。

ssが整数でないとき、zsz^sは単位円周上で一価連続には定義できないので、「閉曲線上で一つの連続関数を積分している」わけではないことに注意する。 ssが整数ならzsz^sは通常の一価関数であり、この問題は起こらない。 以下の計算法は偏角を追跡するだけなので、整数かどうかによらずそのまま使える。 ここで行うのは、パラメータttに沿って偏角を連続に追跡した値を積分することである。 すなわち偏角を0≤arg⁡z≤2π0\leq\arg z\leq2\piの範囲でttとともに連続に増やしていき、その値を用いて積分する。 z=1z=1を除いた広義積分と解釈してもよいし、半円に分けてそれぞれの積分の和と考えてもよい。

単位円周のパラメータづけをγ(t)=exp⁡(2πit)\gamma(t)=\exp(2\pi it)(t∈[0,1]t\in[0,1])とすると、偏角は2πt2\pi tであり、

zs=γ(t)s=exp⁡(slog⁡γ(t))=exp⁡(s2πti) z^s=\gamma(t)^s=\exp(s\log\gamma(t))=\exp(s2\pi t i)

となる。 よって、s≠−1s\neq -1のとき、

∫Czsdz=∫01exp⁡(2πtis)2πiexp⁡(2πit)dt=2πi[12πi(s+1)exp⁡(2πi(s+1)t)]01=1s+1(exp⁡(2πi(s+1))−1) \int_Cz^sdz = \int_0^1\exp(2\pi tis)2\pi i\exp(2\pi it)dt \\\\ = 2\pi i\left[\frac{1}{2\pi i(s+1)}\exp(2\pi i(s+1)t)\right]^1_0 = \frac{1}{s+1}\bigl(\exp(2\pi i(s+1))-1\bigr)

となる。ssが整数ならこれは00だが、そうでない場合には00とならない。

円周の半径をrrとして同様の計算を行う。 円周CrC_rのパラメータづけをγ(t)=rexp⁡(2πit)\gamma(t)=r\exp(2\pi it)とすると、

zs=γ(t)s=exp⁡(slog⁡γ(t))=exp⁡(s(log⁡r+2πti))=rsexp⁡(2πist) z^s=\gamma(t)^s=\exp(s\log\gamma(t))=\exp\bigl(s(\log r+2\pi t i)\bigr)=r^s\exp(2\pi ist)

となる。 よって、s≠−1s\neq -1のとき、

∫Crzsdz=∫01rsexp⁡(2πtis) 2πirexp⁡(2πit)dt=rs+1[1s+1exp⁡(2πi(s+1)t)]01=rs+1s+1(exp⁡(2πi(s+1))−1) \int_{C_r}z^sdz = \int_0^1r^s\exp(2\pi tis)\,2\pi ir\exp(2\pi it)dt \\\\ = r^{s+1}\left[\frac{1}{s+1}\exp(2\pi i(s+1)t)\right]^1_0 = \frac{r^{s+1}}{s+1}\bigl(\exp(2\pi i(s+1))-1\bigr)

となる。こちらもやはりssが整数ならこれは00だが、そうでない場合には00とならない。 また、rrに依存することにも注意しよう。 zsz^sが一価正則な原始関数を持つならば線積分の値はrrには依存しない。

留数定理による積分計算の例題を見てみよう。 ここでは特に関数の多価性を利用する例を紹介する。

メリン変換とガンマ関数の相補公式

ssを複素数で、その実部が0<Re⁡(s)<10<\Re(s)<1なるものとする。

∫0∞xs−1x+1dx=πsin⁡πs\int^\infty_0\frac{x^{s-1}}{x+1}dx=\frac{\pi}{\sin\pi s}

を示そう。

狙い。 求めたいのは実軸の正の部分[0,∞)[0,\infty)上の積分である。 実軸全体の積分なら上半円周で閉じればよいが、半直線上の積分にはその手が使えない。

そこでzs−1z^{s-1}の多価性を逆に利用する。 正の実軸を切断として一周する経路をとると、行きと帰りでzs−1z^{s-1}の値がe2πi(s−1)e^{2\pi i(s-1)}倍だけずれる。 このずれのおかげで、行きと帰りの積分が打ち消し合わずに定数倍の差として残り、求める積分についての方程式が立つ。

ssが整数だとこのずれが消えてしまい、方法が使えない。 多価であることが本質的に効いている例である。

f(z)=zs−1z+1f(z)=\frac{z^{s-1}}{z+1}

とすると、zs−1z^{s-1}に多価性があるので、実軸の正の部分を除いた領域を定義域とし、 zzの偏角を0<arg⁡z<2π0<\arg z<2\piとすることで定まる分枝をとって一価正則な関数を定める。

zs−1=exp⁡((s−1)log⁡z)z^{s-1}=\exp((s-1)\log z)

と定義していたことを思い出そう。 このとき、z=−1z=-1のみが極であり、そこでの留数は(−1)s−1=exp⁡((s−1)πi)=−exp⁡(sπi)(-1)^{s-1}=\exp((s-1)\pi i)=-\exp(s\pi i)である。

さて、積分経路CCを次の四つの曲線を繋いでできるものとする。

C₁ C₃ C₂ C₄ −1 ε R
鍵穴型の積分路。正の実軸が分枝切断で、C1C_1は切断の上側(arg⁡z→+0\arg z\to+0)、C3C_3は下側(arg⁡z→2π−0\arg z\to2\pi-0)を通る。×\timesは極z=−1z=-1。

ここで一つ断っておく。 ffの定義域から正の実軸を除いたのに、以下ではその正の実軸に沿った積分を書く。 これは、偏角δ\deltaの半直線と偏角2π−δ2\pi-\deltaの半直線に沿って積分し、δ→+0\delta\to+0とした極限を表す略記である。 言い換えれば、切断の上側と下側からの境界値による積分である。

この極限が存在することは確かめておく必要がある。 開領域で連続だというだけでは、その境界で有限の極限を持つ保証はないからである。 0<ϵ<1<R0<\epsilon<1<Rを固定し、偏角θ\thetaの半直線上でz=xeiθz=xe^{i\theta}とパラメータづけると、被積分関数は

f(xeiθ)eiθ=xs−1eisθ1+xeiθf(xe^{i\theta})e^{i\theta}=\frac{x^{s-1}e^{is\theta}}{1+xe^{i\theta}}

と書ける。 θ\thetaが00または2π2\piの近くでは分母は1+x1+xに近く00から離れているので、θ→+0\theta\to+0とθ→2π−0\theta\to2\pi-0の極限は区間ϵ≤x≤R\epsilon\leq x\leq Rで一様に存在する。 よって積分と極限が交換でき、それぞれ

xs−11+x,xs−1e2πis1+x\frac{x^{s-1}}{1+x},\qquad \frac{x^{s-1}e^{2\pi is}}{1+x}

の積分になる。 以下では先に角度の極限を取り、そのあとでR→∞R\to\infty、ϵ→0\epsilon\to0とする。

C1C_1を実軸の0<ϵ0<\epsilonからRRまで。 パラメータづけをz=x,x∈[ϵ,R]z=x, x\in[\epsilon,R]で与える。 zs−1z^{s-1}の分枝は切断の上側、すなわちarg⁡z→+0\arg z\to+0の境界値で考える。 ここでの積分は

∫C1f(z)dz=∫ϵRxs−1x+1dx\int_{C_1}f(z)dz= \int_\epsilon^R\frac{x^{s-1}}{x+1}dx

となり、R→∞,ϵ→0R\to\infty, \epsilon\to0の極限を取ることで

∫0∞xs−1x+1dx\int^\infty_0\frac{x^{s-1}}{x+1}dx

に収束する。

C2C_2を半径RRの円を偏角00から2π2\piでの円周とする。

パラメータづけをγ(t)=Rexp⁡(2πit)\gamma(t)=R\exp(2\pi it)とすると、 γ′(t)=R2πiexp⁡(2πit)\gamma'(t)=R2\pi i\exp(2\pi it)であり、∣γ′(t)∣=2πR\lvert\gamma'(t)\rvert=2\pi Rである。

また、

γ(t)s−1=exp⁡((s−1)log⁡(Rexp⁡(2πit)))=exp⁡((s−1)(log⁡R+2πit))\gamma(t)^{s-1}=\exp((s-1)\log(R\exp(2\pi it)))=\exp((s-1)(\log R+ 2\pi it))

であり、

∣γ(t)s−1∣=exp⁡(Re⁡((s−1)(log⁡R+2πit)))=exp⁡((Re⁡(s)−1)log⁡R−Im⁡(s)2πt)\lvert\gamma(t)^{s-1}\rvert=\exp(\Re((s-1)(\log R+ 2\pi it)))=\exp((\Re(s)-1)\log R - \Im(s)2\pi t)

である。

この積分をパラメータで書くと

∫C2f(z)dz=∫01Rs−1exp⁡(2πi(s−1)t)Rexp⁡(2πit)+12πiRexp⁡(2πit)dt\int_{C_2}f(z)dz = \int_0^1\frac{R^{s-1}\exp(2\pi i(s-1)t)}{R\exp(2\pi it)+1}2\pi iR\exp(2\pi it)dt

となる。 これの絶対値を具体的に評価しよう。 σ=Re⁡(s)\sigma=\Re(s)、Ms=e2π∣Im⁡(s)∣M_s=e^{2\pi\lvert\Im(s)\rvert}とおく。 偏角が0≤θ≤2π0\leq\theta\leq2\piの範囲にあるので、上の絶対値の式から

∣zs−1∣=∣z∣σ−1e−Im⁡(s)θ≤Ms∣z∣σ−1\lvert z^{s-1}\rvert=\lvert z\rvert^{\sigma-1}e^{-\Im(s)\theta}\leq M_s\lvert z\rvert^{\sigma-1}

である。 ∣z∣=R\lvert z\rvert=Rでは∣z+1∣≥R−1\lvert z+1\rvert\geq R-1だから、MLML評価により

∣∫C2f(z)dz∣≤2πR⋅MsRσ−1R−1=2πMsRσR−1=O(Rσ−1)\left\lvert \int_{C_2} f(z)dz\right\rvert \leq 2\pi R\cdot\frac{M_sR^{\sigma-1}}{R-1} =\frac{2\pi M_sR^{\sigma}}{R-1}=O(R^{\sigma-1})

となる。 σ<1\sigma<1だからこれはR→∞R\to\inftyで00に収束する。 条件Re⁡(s)<1\Re(s)<1がここで効いている。

C3C_3を実軸のRRからϵ\epsilonまでの線分とする。 ここではarg⁡z=2π\arg z=2\piとなることに注意すると、積分は

∫C3f(z)dz=exp⁡(2πi(s−1))∫Rϵxs−1exp⁡(2πi)x+1exp⁡(2πi)dx\int_{C_3}f(z)dz = \exp(2\pi i(s-1))\int_R^\epsilon\frac{x^{s-1}}{\exp(2\pi i)x+1}\exp(2\pi i)dx

となり、R→∞,ϵ→0R\to\infty, \epsilon\to0の極限を取ることで

−exp⁡(2πi(s−1))∫0∞xs−1x+1dx-\exp(2\pi i(s-1))\int^\infty_0\frac{x^{s-1}}{x+1}dx

に収束する。

C4C_4を半径ϵ\epsilonの円を偏角2π2\piから00までの円周とする。 ∣z∣=ϵ<1\lvert z\rvert=\epsilon<1では∣z+1∣≥1−ϵ\lvert z+1\rvert\geq1-\epsilonだから、C2C_2と同様に

∣∫C4f(z)dz∣≤2πϵ⋅Msϵσ−11−ϵ=2πMsϵσ1−ϵ=O(ϵσ)\left\lvert \int_{C_4} f(z)dz\right\rvert \leq 2\pi\epsilon\cdot\frac{M_s\epsilon^{\sigma-1}}{1-\epsilon} =\frac{2\pi M_s\epsilon^{\sigma}}{1-\epsilon}=O(\epsilon^{\sigma})

と評価できる。 σ>0\sigma>0だからこれはϵ→0\epsilon\to0で00に収束する。 条件Re⁡(s)>0\Re(s)>0はここで効いている。

実軸上の積分も、xσ−1x^{\sigma-1}との比較から00の近くで、xσ−2x^{\sigma-2}との比較から無限遠で絶対収束する。 こうして0<Re⁡(s)<10<\Re(s)<1という条件がどこで必要になるかがすべて見える。

全て合わせてR→∞,ϵ→0R\to\infty, \epsilon\to0の極限を考えると

(1−exp⁡(2πi(s−1)))∫0∞xs−1x+1dx=−2πiexp⁡(πis)∫0∞xs−1x+1dx=2πi−exp⁡(πis)1−exp⁡(2πis)=−2πiexp⁡(−πis)−exp⁡(πis)=πsin⁡πs(1-\exp(2\pi i(s-1)))\int^\infty_0\frac{x^{s-1}}{x+1}dx =-2\pi i\exp(\pi is)\\\\ \int^\infty_0\frac{x^{s-1}}{x+1}dx =2\pi i\frac{-\exp(\pi is)}{1-\exp(2\pi is)}\\\\ = \frac{-2\pi i}{\exp(-\pi is)-\exp(\pi is)}\\\\ = \frac{\pi}{\sin \pi s}

となる。

上の積分はf(x)=1x+1f(x)=\dfrac{1}{x+1}のメリン変換

∫0∞f(x)xs−1dx\int^\infty_0f(x)x^{s-1}dx

を計算したことになる。

この積分

∫0∞xs−1x+1dx=πsin⁡πs\int^\infty_0\frac{x^{s-1}}{x+1}dx=\frac{\pi}{\sin \pi s}

において1x+1=t\dfrac{1}{x+1}=tとすると、x=1−tt,dx=−dtt2x=\dfrac{1-t}{t}, dx=-\dfrac{dt}{t^2}となるので

∫0∞xs−1x+1dx=∫01t−s(1−t)s−1dt\int^\infty_0\frac{x^{s-1}}{x+1}dx =\int^1_0t^{-s}(1-t)^{s-1}dt

となる。

ここで右辺はベータ関数である。

ベータ関数

Re⁡(p)>0\Re(p)>0、Re⁡(q)>0\Re(q)>0に対し

B(p,q)=∫01tp−1(1−t)q−1dtB(p,q)=\int^1_0t^{p-1}(1-t)^{q-1}dt

と定める。

ベータ関数とガンマ関数の関係

Re⁡(p)>0\Re(p)>0、Re⁡(q)>0\Re(q)>0に対し

B(p,q)=Γ(p)Γ(q)Γ(p+q)B(p,q)=\frac{\Gamma(p)\Gamma(q)}{\Gamma(p+q)}

が成り立つ。

この関係式はここでは証明せず、既知として用いる。 (Γ(p)Γ(q)\Gamma(p)\Gamma(q)を二重積分に書いて変数変換すれば示せる。)

上の積分はp=1−sp=1-s、q=sq=sの場合であり、Γ(1)=1\Gamma(1)=1であるから

∫01t−s(1−t)s−1dt=B(1−s,s)=Γ(1−s)Γ(s)Γ(1)=Γ(s)Γ(1−s)\int^1_0t^{-s}(1-t)^{s-1}dt=B(1-s,s)=\frac{\Gamma(1-s)\Gamma(s)}{\Gamma(1)}=\Gamma(s)\Gamma(1-s)

となる。

結果として、例で与えた計算により、Γ\Gamma関数の相補公式

Γ(s)Γ(1−s)=πsin⁡(πs)\Gamma(s)\Gamma(1-s)=\frac{\pi}{\sin(\pi s)}

が0<Re⁡(s)<10<\Re(s)<1で証明された。 この両辺はC\C全体で有理型関数として定義されるので、一致の定理からC\C全体で上の等式が成り立つ。 ただしこれは有理型関数としての恒等式であって、両辺が極を持つ整数点では数値の等式としては意味を持たない。

区間を切断とする平方根

1(x−a)(b−x)\dfrac{1}{\sqrt{(x-a)(b-x)}} の積分

a,b∈R,a<ba,b\in\R, a<bとして

∫abdx(x−a)(b−x)=π\int_a^b\frac{dx}{\sqrt{(x-a)(b-x)}}=\pi

を示す。 これは三角関数による置換積分で初等的にも計算できるが、ここでは分枝の扱いの練習として複素積分で求める。

分枝を決める

h(z)=(z−a)(z−b)h(z)=\sqrt{(z-a)(z-b)}

の分枝を一つ固定する。 θa=arg⁡(z−a)\theta_a=\arg(z-a)、θb=arg⁡(z−b)\theta_b=\arg(z-b)をいずれも(−π,π)(-\pi,\pi)にとり

h(z)=∣z−a∣∣z−b∣ exp⁡(iθa+θb2)h(z)=\sqrt{\lvert z-a\rvert\lvert z-b\rvert}\,\exp\left(i\frac{\theta_a+\theta_b}{2}\right)

と定める。 偏角を開区間(−π,π)(-\pi,\pi)にとったので、この式が意味を持つのはさしあたりC∖(−∞,b]\C\setminus(-\infty,b]の上だけである。 この分枝はx>bx>bにおいてθa=θb=0\theta_a=\theta_b=0よりh(x)=(x−a)(x−b)>0h(x)=\sqrt{(x-a)(x-b)}>0を満たす。

θa\theta_aは半直線(−∞,a](-\infty,a]で、θb\theta_bは(−∞,b](-\infty,b]で不連続になる。 ところがx<ax<aでは、上から近づくとθa,θb→π\theta_a,\theta_b\to\pi、下から近づくとθa,θb→−π\theta_a,\theta_b\to-\piであり、どちらの側からも

h(x)=−(x−a)(x−b)h(x)=-\sqrt{(x-a)(x-b)}

という同じ値に収束する。 偏角の跳びはθa,θb\theta_a,\theta_bそれぞれ2π2\piなのでθa+θb2\dfrac{\theta_a+\theta_b}{2}の変化は2π2\piであり、exp⁡(2πi)=1\exp(2\pi i)=1だからhhの値が変わらないのである。 よってhhは半直線x<ax<aを越えて正則に延長でき、C∖[a,b]\C\setminus[a,b]上の一価正則関数になる。 これが「二つの平方根の符号が両方変わるので全体では変わらない」という現象である。

延長できることは

h(z)=(z−b)z−az−bh(z)=(z-b)\sqrt{\frac{z-a}{z-b}}

と書き直すと見やすい。 右辺の平方根は負の実軸を切断とする主分枝である。 z∉[a,b]z\notin[a,b]のとき比z−az−b\dfrac{z-a}{z-b}は負の実数にならないので、この式はC∖[a,b]\C\setminus[a,b]全体で正則であり、x>bx>bで正になる。

無限遠での漸近形

∣z∣→∞\lvert z\rvert\to\inftyではθa,θb→arg⁡z\theta_a,\theta_b\to\arg zであるから

h(z)=z(1−az)(1−bz)=z(1−a+b2z+O(z−2))h(z)=z\sqrt{\left(1-\frac{a}{z}\right)\left(1-\frac{b}{z}\right)} =z\left(1-\frac{a+b}{2z}+O(z^{-2})\right)

であり、

1h(z)=1z+O(z−2)\frac{1}{h(z)}=\frac{1}{z}+O(z^{-2})

となる。 CRC_Rを∣z∣=R\lvert z\rvert=Rの反時計回りの円周とすると、これより

lim⁡R→∞∫CRdzh(z)=2πi\lim_{R\to\infty}\int_{C_R}\frac{dz}{h(z)}=2\pi i

が従う。 さらに1h\dfrac{1}{h}は∣z∣>max⁡(∣a∣,∣b∣)\lvert z\rvert>\max(\lvert a\rvert,\lvert b\rvert)の円環で正則だから、その範囲で積分は半径によらない。 したがって極限を待つまでもなく、そのようなRRすべてに対して

∫CRdzh(z)=2πi\int_{C_R}\frac{dz}{h(z)}=2\pi i

である。

切断の上下での境界値

x∈(a,b)x\in(a,b)とする。 上から近づくとθa=0\theta_a=0、θb=π\theta_b=\piであるから

h(x+i0)=(x−a)(b−x) eiπ/2=i(x−a)(b−x)h(x+i0)=\sqrt{(x-a)(b-x)}\,e^{i\pi/2}=i\sqrt{(x-a)(b-x)}

であり、下から近づくとθb=−π\theta_b=-\piとなって

h(x−i0)=−i(x−a)(b−x)h(x-i0)=-i\sqrt{(x-a)(b-x)}

である。

積分路を切断に潰す

1h\dfrac{1}{h}はC∖[a,b]\C\setminus[a,b]で正則だから、CRC_Rを線分[a,b][a,b]を囲む細い経路に連続変形できる。 経路を具体的に決めよう。 0<δ<r<b−a20<\delta<r<\dfrac{b-a}{2}とし、t=r2−δ2t=\sqrt{r^2-\delta^2}とおく。 経路は切断の上側をb−t+iδb-t+i\deltaからa+t+iδa+t+i\deltaへ、下側をa+t−iδa+t-i\deltaからb−t−iδb-t-i\deltaへ進み、両端を円弧でつなぐ。 端の円弧をAa,r,δA_{a,r,\delta}、Ab,r,δA_{b,r,\delta}と書く。

Aa,r,δA_{a,r,\delta}は中心aa、半径rrの円のうち、切断[a,b][a,b]を通らない側の弧である。 ttをこう選んだのは、線分の端点a+t+iδa+t+i\deltaのaaからの距離が

∣(a+t+iδ)−a∣=t2+δ2=r\lvert (a+t+i\delta)-a\rvert=\sqrt{t^2+\delta^2}=r

となり、ちょうど円周上に乗るようにするためである。 これで閉じた積分路が定まる。

円全体を使わないのは、hhが切断の上で定義されていないからである。 弧の長さは2πr2\pi r以下なので、以下の評価はそのまま使える。 δ→0\delta\to0のときt→rt\to rなので、線分は区間[a+r,b−r][a+r, b-r]の積分に移る。

a b A A t δ r a,r,δ b,r,δ
切断[a,b][a,b]に潰していく積分路。上側をb−t+iδb-t+i\deltaからa+t+iδa+t+i\deltaへ、下側をa+t−iδa+t-i\deltaからb−t−iδb-t-i\deltaへ進み、両端を半径rrの円弧でつなぐ。t=r2−δ2t=\sqrt{r^2-\delta^2}とすることで線分の端点が円周上に乗る(破線の直角三角形)。円弧は切断を通らない側だけを使う。

図の破線がt2+δ2=r2t^2+\delta^2=r^2を表している。 この直角三角形があるおかげで、線分の端点がちょうど円周上に乗り、積分路が閉じる。

極限は二段階に分けて取る。 まずrrを固定したままδ→0\delta\to0とする。 この区間[a+r,b−r][a+r, b-r]は切断の端点から離れているので、上下の境界値への収束は一様であり、積分は境界値の積分に収束する。 そのうえでr→0r\to0とする。

まず円弧の寄与が消えることを見よう。 z=az=aの近くでは∣h(z)∣=∣z−a∣∣z−b∣\lvert h(z)\rvert=\sqrt{\lvert z-a\rvert\lvert z-b\rvert}であり、 r<b−a2r<\dfrac{b-a}{2}ととれば∣z−b∣≥b−a2\lvert z-b\rvert\geq\dfrac{b-a}{2}であるから

∣∫Aa,r,δdzh(z)∣≤2πrr⋅b−a2=2π2rb−a=O(r)\left\lvert\int_{A_{a,r,\delta}}\frac{dz}{h(z)}\right\rvert \leq\frac{2\pi r}{\sqrt{r\cdot\frac{b-a}{2}}} =2\pi\sqrt{\frac{2r}{b-a}} =O(\sqrt r)

となり、r→0r\to0で00に収束する。 z=bz=bの近くも同様である。

実軸上の積分で端を落とした分も同じ order である。 x→ax\to aでは被積分関数が1x−a\dfrac{1}{\sqrt{x-a}}型、x→bx\to bでは1b−x\dfrac{1}{\sqrt{b-x}}型なので、長さrrの端の区間の寄与はO(r)O(\sqrt r)である。 したがってr→0r\to0で広義積分IIに収束する。

残りをI=∫abdx(x−a)(b−x)I=\displaystyle\int_a^b\frac{dx}{\sqrt{(x-a)(b-x)}}を用いて書くと

2πi=∫badxi(x−a)(b−x)+∫abdx−i(x−a)(b−x)=iI+iI=2iI2\pi i =\int_b^a\frac{dx}{i\sqrt{(x-a)(b-x)}}+\int_a^b\frac{dx}{-i\sqrt{(x-a)(b-x)}} =iI+iI=2iI

である。 よってI=πI=\piを得る。

演習
∫ab(x−a)(b−x)dx\int_a^b\sqrt{(x-a)(b-x)}dx

を同じ方法で計算せよ。

答えは

∫ab(x−a)(b−x)dx=π8(b−a)2\int_a^b\sqrt{(x-a)(b-x)}dx =\frac{\pi}{8}(b-a)^2

となる。

これはy=(x−a)(b−x)y=\sqrt{(x-a)(b-x)}のグラフが、中心a+b2\dfrac{a+b}{2}、半径b−a2\dfrac{b-a}{2}の上半円周であることからも確かめられる。 半円の面積は12π(b−a2)2=π8(b−a)2\dfrac{1}{2}\pi\left(\dfrac{b-a}{2}\right)^2=\dfrac{\pi}{8}(b-a)^2である。