多価関数を含む定積分
この記事では、分枝を選ばないと一価にならない関数の積分を2つ扱う。
メリン変換からガンマ関数の相補公式を導く鍵穴型の計算と、区間[a,b]を切断とする平方根の計算である。
どちらも手順は共通している。
- 分枝を決める:偏角の範囲と切断を指定し、一価正則な関数を作る
- 切断の上下での境界値を求める:切断を挟んで値がどれだけずれるかを見る
- 円弧の寄与を評価する:ML評価で、消える項と残る項を区別する
- 残りを足し合わせる:上下の境界値の差から求める積分を取り出す
円弧の扱いは2つの例で異なる。
鍵穴型では大円・小円の積分がどちらも消えるが、平方根の例では端点の小円弧だけが消え、大円の寄与2πiは残って最終結果を作る。
鍵穴型の積分路
複素数sに対し、zsを単位円周で積分することを考えよう。
sが整数でないとき、zsは単位円周上で一価連続には定義できないので、「閉曲線上で一つの連続関数を積分している」わけではないことに注意する。
sが整数ならzsは通常の一価関数であり、この問題は起こらない。
以下の計算法は偏角を追跡するだけなので、整数かどうかによらずそのまま使える。
ここで行うのは、パラメータtに沿って偏角を連続に追跡した値を積分することである。
すなわち偏角を0≤argz≤2πの範囲でtとともに連続に増やしていき、その値を用いて積分する。
z=1を除いた広義積分と解釈してもよいし、半円に分けてそれぞれの積分の和と考えてもよい。
単位円周のパラメータづけをγ(t)=exp(2πit)(t∈[0,1])とすると、偏角は2πtであり、
zs=γ(t)s=exp(slogγ(t))=exp(s2πti)
となる。
よって、s=−1のとき、
∫Czsdz=∫01exp(2πtis)2πiexp(2πit)dt=2πi[2πi(s+1)1exp(2πi(s+1)t)]01=s+11(exp(2πi(s+1))−1)
となる。sが整数ならこれは0だが、そうでない場合には0とならない。
円周の半径をrとして同様の計算を行う。
円周Crのパラメータづけをγ(t)=rexp(2πit)とすると、
zs=γ(t)s=exp(slogγ(t))=exp(s(logr+2πti))=rsexp(2πist)
となる。
よって、s=−1のとき、
∫Crzsdz=∫01rsexp(2πtis)2πirexp(2πit)dt=rs+1[s+11exp(2πi(s+1)t)]01=s+1rs+1(exp(2πi(s+1))−1)
となる。こちらもやはりsが整数ならこれは0だが、そうでない場合には0とならない。
また、rに依存することにも注意しよう。
zsが一価正則な原始関数を持つならば線積分の値はrには依存しない。
留数定理による積分計算の例題を見てみよう。
ここでは特に関数の多価性を利用する例を紹介する。
メリン変換とガンマ関数の相補公式
sを複素数で、その実部が0<Re(s)<1なるものとする。
∫0∞x+1xs−1dx=sinπsπを示そう。
狙い。 求めたいのは実軸の正の部分[0,∞)上の積分である。
実軸全体の積分なら上半円周で閉じればよいが、半直線上の積分にはその手が使えない。
そこでzs−1の多価性を逆に利用する。
正の実軸を切断として一周する経路をとると、行きと帰りでzs−1の値がe2πi(s−1)倍だけずれる。
このずれのおかげで、行きと帰りの積分が打ち消し合わずに定数倍の差として残り、求める積分についての方程式が立つ。
sが整数だとこのずれが消えてしまい、方法が使えない。
多価であることが本質的に効いている例である。
f(z)=z+1zs−1とすると、zs−1に多価性があるので、実軸の正の部分を除いた領域を定義域とし、
zの偏角を0<argz<2πとすることで定まる分枝をとって一価正則な関数を定める。
zs−1=exp((s−1)logz)と定義していたことを思い出そう。
このとき、z=−1のみが極であり、そこでの留数は(−1)s−1=exp((s−1)πi)=−exp(sπi)である。
さて、積分経路Cを次の四つの曲線を繋いでできるものとする。
鍵穴型の積分路。正の実軸が分枝切断で、C1は切断の上側(argz→+0)、C3は下側(argz→2π−0)を通る。×は極z=−1。ここで一つ断っておく。
fの定義域から正の実軸を除いたのに、以下ではその正の実軸に沿った積分を書く。
これは、偏角δの半直線と偏角2π−δの半直線に沿って積分し、δ→+0とした極限を表す略記である。
言い換えれば、切断の上側と下側からの境界値による積分である。
この極限が存在することは確かめておく必要がある。
開領域で連続だというだけでは、その境界で有限の極限を持つ保証はないからである。
0<ϵ<1<Rを固定し、偏角θの半直線上でz=xeiθとパラメータづけると、被積分関数は
f(xeiθ)eiθ=1+xeiθxs−1eisθと書ける。
θが0または2πの近くでは分母は1+xに近く0から離れているので、θ→+0とθ→2π−0の極限は区間ϵ≤x≤Rで一様に存在する。
よって積分と極限が交換でき、それぞれ
1+xxs−1,1+xxs−1e2πisの積分になる。
以下では先に角度の極限を取り、そのあとでR→∞、ϵ→0とする。
C1を実軸の0<ϵからRまで。
パラメータづけをz=x,x∈[ϵ,R]で与える。
zs−1の分枝は切断の上側、すなわちargz→+0の境界値で考える。
ここでの積分は
∫C1f(z)dz=∫ϵRx+1xs−1dxとなり、R→∞,ϵ→0の極限を取ることで
∫0∞x+1xs−1dxに収束する。
C2を半径Rの円を偏角0から2πでの円周とする。
パラメータづけをγ(t)=Rexp(2πit)とすると、
γ′(t)=R2πiexp(2πit)であり、∣γ′(t)∣=2πRである。
また、
γ(t)s−1=exp((s−1)log(Rexp(2πit)))=exp((s−1)(logR+2πit))であり、
∣γ(t)s−1∣=exp(Re((s−1)(logR+2πit)))=exp((Re(s)−1)logR−Im(s)2πt)である。
この積分をパラメータで書くと
∫C2f(z)dz=∫01Rexp(2πit)+1Rs−1exp(2πi(s−1)t)2πiRexp(2πit)dtとなる。
これの絶対値を具体的に評価しよう。
σ=Re(s)、Ms=e2π∣Im(s)∣とおく。
偏角が0≤θ≤2πの範囲にあるので、上の絶対値の式から
∣zs−1∣=∣z∣σ−1e−Im(s)θ≤Ms∣z∣σ−1である。
∣z∣=Rでは∣z+1∣≥R−1だから、ML評価により
∫C2f(z)dz≤2πR⋅R−1MsRσ−1=R−12πMsRσ=O(Rσ−1)となる。
σ<1だからこれはR→∞で0に収束する。
条件Re(s)<1がここで効いている。
C3を実軸のRからϵまでの線分とする。
ここではargz=2πとなることに注意すると、積分は
∫C3f(z)dz=exp(2πi(s−1))∫Rϵexp(2πi)x+1xs−1exp(2πi)dxとなり、R→∞,ϵ→0の極限を取ることで
−exp(2πi(s−1))∫0∞x+1xs−1dxに収束する。
C4を半径ϵの円を偏角2πから0までの円周とする。
∣z∣=ϵ<1では∣z+1∣≥1−ϵだから、C2と同様に
∫C4f(z)dz≤2πϵ⋅1−ϵMsϵσ−1=1−ϵ2πMsϵσ=O(ϵσ)と評価できる。
σ>0だからこれはϵ→0で0に収束する。
条件Re(s)>0はここで効いている。
実軸上の積分も、xσ−1との比較から0の近くで、xσ−2との比較から無限遠で絶対収束する。
こうして0<Re(s)<1という条件がどこで必要になるかがすべて見える。
全て合わせてR→∞,ϵ→0の極限を考えると
(1−exp(2πi(s−1)))∫0∞x+1xs−1dx=−2πiexp(πis)∫0∞x+1xs−1dx=2πi1−exp(2πis)−exp(πis)=exp(−πis)−exp(πis)−2πi=sinπsπとなる。
上の積分はf(x)=x+11のメリン変換
∫0∞f(x)xs−1dx
を計算したことになる。
この積分
∫0∞x+1xs−1dx=sinπsπ
においてx+11=tとすると、x=t1−t,dx=−t2dtとなるので
∫0∞x+1xs−1dx=∫01t−s(1−t)s−1dt
となる。
ここで右辺はベータ関数である。
ベータ関数
Re(p)>0、Re(q)>0に対し
B(p,q)=∫01tp−1(1−t)q−1dtと定める。
ベータ関数とガンマ関数の関係
Re(p)>0、Re(q)>0に対し
B(p,q)=Γ(p+q)Γ(p)Γ(q)が成り立つ。
この関係式はここでは証明せず、既知として用いる。
(Γ(p)Γ(q)を二重積分に書いて変数変換すれば示せる。)
上の積分はp=1−s、q=sの場合であり、Γ(1)=1であるから
∫01t−s(1−t)s−1dt=B(1−s,s)=Γ(1)Γ(1−s)Γ(s)=Γ(s)Γ(1−s)
となる。
結果として、例で与えた計算により、Γ関数の相補公式
Γ(s)Γ(1−s)=sin(πs)π
が0<Re(s)<1で証明された。
この両辺はC全体で有理型関数として定義されるので、一致の定理からC全体で上の等式が成り立つ。
ただしこれは有理型関数としての恒等式であって、両辺が極を持つ整数点では数値の等式としては意味を持たない。
区間を切断とする平方根
(x−a)(b−x)1 の積分
a,b∈R,a<bとして
∫ab(x−a)(b−x)dx=πを示す。
これは三角関数による置換積分で初等的にも計算できるが、ここでは分枝の扱いの練習として複素積分で求める。
分枝を決める
h(z)=(z−a)(z−b)の分枝を一つ固定する。
θa=arg(z−a)、θb=arg(z−b)をいずれも(−π,π)にとり
h(z)=∣z−a∣∣z−b∣exp(i2θa+θb)と定める。
偏角を開区間(−π,π)にとったので、この式が意味を持つのはさしあたりC∖(−∞,b]の上だけである。
この分枝はx>bにおいてθa=θb=0よりh(x)=(x−a)(x−b)>0を満たす。
θaは半直線(−∞,a]で、θbは(−∞,b]で不連続になる。
ところがx<aでは、上から近づくとθa,θb→π、下から近づくとθa,θb→−πであり、どちらの側からも
h(x)=−(x−a)(x−b)という同じ値に収束する。
偏角の跳びはθa,θbそれぞれ2πなので2θa+θbの変化は2πであり、exp(2πi)=1だからhの値が変わらないのである。
よってhは半直線x<aを越えて正則に延長でき、C∖[a,b]上の一価正則関数になる。
これが「二つの平方根の符号が両方変わるので全体では変わらない」という現象である。
延長できることは
h(z)=(z−b)z−bz−aと書き直すと見やすい。
右辺の平方根は負の実軸を切断とする主分枝である。
z∈/[a,b]のとき比z−bz−aは負の実数にならないので、この式はC∖[a,b]全体で正則であり、x>bで正になる。
無限遠での漸近形
∣z∣→∞ではθa,θb→argzであるから
h(z)=z(1−za)(1−zb)=z(1−2za+b+O(z−2))であり、
h(z)1=z1+O(z−2)となる。
CRを∣z∣=Rの反時計回りの円周とすると、これより
R→∞lim∫CRh(z)dz=2πiが従う。
さらにh1は∣z∣>max(∣a∣,∣b∣)の円環で正則だから、その範囲で積分は半径によらない。
したがって極限を待つまでもなく、そのようなRすべてに対して
∫CRh(z)dz=2πiである。
切断の上下での境界値
x∈(a,b)とする。
上から近づくとθa=0、θb=πであるから
h(x+i0)=(x−a)(b−x)eiπ/2=i(x−a)(b−x)であり、下から近づくとθb=−πとなって
h(x−i0)=−i(x−a)(b−x)である。
積分路を切断に潰す
h1はC∖[a,b]で正則だから、CRを線分[a,b]を囲む細い経路に連続変形できる。
経路を具体的に決めよう。
0<δ<r<2b−aとし、t=r2−δ2とおく。
経路は切断の上側をb−t+iδからa+t+iδへ、下側をa+t−iδからb−t−iδへ進み、両端を円弧でつなぐ。
端の円弧をAa,r,δ、Ab,r,δと書く。
Aa,r,δは中心a、半径rの円のうち、切断[a,b]を通らない側の弧である。
tをこう選んだのは、線分の端点a+t+iδのaからの距離が
∣(a+t+iδ)−a∣=t2+δ2=rとなり、ちょうど円周上に乗るようにするためである。
これで閉じた積分路が定まる。
円全体を使わないのは、hが切断の上で定義されていないからである。
弧の長さは2πr以下なので、以下の評価はそのまま使える。
δ→0のときt→rなので、線分は区間[a+r,b−r]の積分に移る。
切断[a,b]に潰していく積分路。上側をb−t+iδからa+t+iδへ、下側をa+t−iδからb−t−iδへ進み、両端を半径rの円弧でつなぐ。t=r2−δ2とすることで線分の端点が円周上に乗る(破線の直角三角形)。円弧は切断を通らない側だけを使う。図の破線がt2+δ2=r2を表している。
この直角三角形があるおかげで、線分の端点がちょうど円周上に乗り、積分路が閉じる。
極限は二段階に分けて取る。
まずrを固定したままδ→0とする。
この区間[a+r,b−r]は切断の端点から離れているので、上下の境界値への収束は一様であり、積分は境界値の積分に収束する。
そのうえでr→0とする。
まず円弧の寄与が消えることを見よう。
z=aの近くでは∣h(z)∣=∣z−a∣∣z−b∣であり、
r<2b−aととれば∣z−b∣≥2b−aであるから
∫Aa,r,δh(z)dz≤r⋅2b−a2πr=2πb−a2r=O(r)となり、r→0で0に収束する。
z=bの近くも同様である。
実軸上の積分で端を落とした分も同じ order である。
x→aでは被積分関数がx−a1型、x→bではb−x1型なので、長さrの端の区間の寄与はO(r)である。
したがってr→0で広義積分Iに収束する。
残りをI=∫ab(x−a)(b−x)dxを用いて書くと
2πi=∫bai(x−a)(b−x)dx+∫ab−i(x−a)(b−x)dx=iI+iI=2iIである。
よってI=πを得る。
演習
∫ab(x−a)(b−x)dxを同じ方法で計算せよ。
答えは
∫ab(x−a)(b−x)dx=8π(b−a)2となる。
これはy=(x−a)(b−x)のグラフが、中心2a+b、半径2b−aの上半円周であることからも確かめられる。
半円の面積は21π(2b−a)2=8π(b−a)2である。