一致の定理と解析接続
一致の定理は、正則関数が局所的な情報だけで大域的に決まってしまうことを述べる定理である。
実関数では成り立たない、正則関数に特有の強い剛性を表している。
証明の方針
z=0を中心とする収束冪級数f(z)=n∑anznを考える。
あるnについてan=0であれば、fはz=0の近くでz=0以外に零点を持たない。
(f(0)=a0なので、z=0が零点かどうかはa0=0かどうかによる。)
対偶をとれば、fがz=0の近傍で恒等的に0ならば、すべてのnについてan=0である。
一般の正則関数についても、各点でのテイラー展開を通じて同じことが言える。
そこで次の2段階で証明する。
第一段階は局所的な主張で、ある点で微分係数がすべて0ならば、その点の近傍でfが恒等的に0であること。
第二段階は大域的な主張で、微分係数がすべて0になる点の集合が開かつ閉であることから、領域の連結性を使って領域全体に広げること。
閉であることは導関数の連続性から、開であることは第一段階から従う。
準備:剰余項付きのテイラー展開
まず、正則関数のテイラー展開を剰余項を明示した形で述べておく。
剰余項付きテイラー展開
fは領域Ωで正則とする。
このとき、a∈Ωに対し、あるΩで正則な関数fn(z)が存在して
f(z)=f(a)+f′(a)(z−a)+2!f(2)(a)(z−a)2+⋯+(n−1)!f(n−1)(a)(z−a)n−1+fn(z)(z−a)nとなる。
さらに、z=aを中心とし、閉円板がΩに含まれる円周Cに正の向きをつけたものに対し、Cの内部のzについて
fn(z)=2πi1∫C(ζ−a)n(ζ−z)f(ζ)dζとなる。
この事実を用いると次のことが証明できる。
微分係数がすべて消えれば恒等的に 0
微分係数と恒等的零
領域Ωで正則な関数f(z)について、
z=aにおいてf(a)および全ての階数の微分係数f(n)(a)(n≥1)が0だとすると、fはΩ上恒等的に0である。
証明
まず、ある円Cの内部でfが恒等的に0であることを示す。
微分係数が全て0であるとすると、任意のnに対しある正則関数fn(z)が存在して
f(z)=fn(z)(z−a)nとなる。
この円C及びその内部における∣f(z)∣の最大値をMとし、Cの半径をRとすると、
上の定理の剰余項の表示から
∣fn(z)∣≤Rn−1(R−∣z−a∣)Mとなる。
よって
∣f(z)∣≤(R∣z−a∣)nR−∣z−a∣MRとなる。
ここで、∣z−a∣<Rとなるので、n→∞で右辺は0に収束するからf(z)=0となる。
さてΩ全体でfが恒等的に0であることを示す。
E1⊂Ωをf及びその導関数が全て0になる点のなす集合とする。
上で見たことより、E1は開集合である。
一方で、E1は閉集合でもある。
Ωが連結でE1は空でないのでΩ=E1となる。
この定理の対偶により、fが恒等的に0でなければ、どの点でも微分係数のうち0でないものが存在する。
このことからfの零点は孤立することがわかる。
零点の位数と孤立性
零点の位数
f(α)=0とし、f(z)=∑n=0∞an(z−α)nとおく。
あるn0でan0=0かつn<n0ならばan=0であるとする。
このとき、
f(z)=(z−α)n0n=0∑∞an0+n(z−α)nとなる。
bn=an0+nとおき、g(z)=∑n=0∞an0+n(z−α)nとおく。
b0=0なので、g(α)=b0=0である。
よって、あるϵ>0で∣z−α∣<ϵならばg(z)=0となるようなものが取れる。
この範囲で0<∣z−α∣であれば(z−α)n0=0でもあるから、f(z)=0である。
z=α自身はf(α)=0なので除いておく必要がある。
つまり、恒等的に0でない正則関数の零点はすべて孤立している。
ここで集積点という言葉を確認しておこう。
集合Sに対し、点αがSの集積点であるとは、任意のϵ>0に対して0<∣z−α∣<ϵを満たすz∈Sが存在することをいう。
α自身がSに属するかどうかは問わない。
上で見たことは、恒等的に0でない正則関数の零点集合は領域内に集積点を持たない、と言い換えられる。
一致の定理
一致の定理
f(z),g(z)を領域Dで正則な関数で、D内に集積点を持つ集合の上でf(z)=g(z)とする。
このとき、D上でf(z)=g(z)である。
証明
h=f−gとおくとhはDで正則で、その零点集合はD内に集積点を持つ。
零点が孤立することの対偶によりhはD上恒等的に0である。
よってf=gである。
一致の定理の別の定式化
領域D上の「解析関数」f,gがあり、D内のある点αにおいて、f(α)=g(α)であるとする。
さらに、αのどんな近くにも(要するに集積点、収束する点列が取れる)f(z)=g(z)となるz=αがあるなら、
fとgはD全体で一致する。
解析接続
一致の定理を用いることで、正則関数の解析接続という概念を導入する。
領域Ω1で正則な関数f1と領域Ω2で正則な関数f2が、共通領域Ω1∩Ω2においてf1=f2であるとき、Ω1∪Ω2における正則関数fであって、Ω1上ではf1に一致し、Ω2上ではf2に一致する関数が定まる。
このような条件を満たすfは、一致の定理からただ一つに定まる。
これをf1(あるいはf2)のΩ1∪Ω2への解析接続という。
ここで何が正則関数に特有なのかを切り分けておこう。
上の状況ではf1とf2の両方が与えられ、共通部分(空でないとする)で一致している。
このとき貼り合わせた関数が一意なのは、実は連続関数でも同じである。
各点での値がf1かf2によって既に決まっているからで、正則性は効いていない。
正則関数に特有なのは、f1だけを与えたときの話である。
Ω1を含む連結な領域Ωの上でf1の正則な延長が存在すれば、それは一意に定まる。
一致の定理から、Ω1の上で一致する二つの正則関数はΩ全体で一致するためである。
連続関数や実C∞級関数では、このような延長は一般に無数にある。
存在するかどうか、一意かどうか、そして次に述べるように経路に依存するかどうかは、それぞれ別の問題であることに注意しよう。
共通部分Ω1∩Ω2が連結でない場合、その複数の連結成分において同時にf1=f2が成り立つとは限らない。
共通部分が非連結な例
対数関数の二つの分枝を考える。
Ω1=C∖(−∞,0]の上で−π<argz<πと定めた主枝をf1とする。
Ω2=C∖[0,∞)の上で0<argz<2πと定めた分枝をf2とする。
いずれもlog∣z∣+iargzである。
共通部分Ω1∩Ω2は実軸をすべて除いたものなので、上半平面と下半平面の2つの連結成分に分かれる。
上半平面では、主枝もf2もargz∈(0,π)をとるのでf1=f2である。
一方、下半平面では主枝がargz∈(−π,0)をとるのに対し、f2はargz∈(π,2π)をとる。
同じ点に対する偏角が2πだけずれるので
f2(z)=f1(z)+2πiとなり、一致しない。
一方の連結成分で一致したからといって、他方でも一致するとは限らないわけである。
したがってこのf1,f2はΩ1∪Ω2上の一つの正則関数には貼り合わせられない。
この現象は、原点の周りを回ると対数の値が2πiずれることの言い換えである。
解析接続を経路に沿って続けていったとき、出発点に戻っても元の値に戻るとは限らない。
これが解析接続の経路依存性である。
解析接続の例
冪級数
f(z)=1+z+z2+⋯は∣z∣<1で絶対収束し正則関数を定める。
この範囲で、等比数列の和の公式から
f(z)=1−z1となる。
この右辺の式はz=1で正則関数を定める。
つまりfはC∖{1}に解析接続される。
冪級数そのものは∣z∣<1でしか意味を持たないが、それが定める関数はより広い領域に一意に延長できる。
これが解析接続の典型例である。
演習
集積点が領域内にある必要
f(z)=sinzπはC∖{0}で正則である。
fの零点z=n1(nは0でない整数)は0に集積するが、一致の定理からf≡0は導けない。
理由を述べよ。
解答
sinzπ=0となるのはzπ=nπすなわちz=n1のときである。
これらはn→∞で0に集積する。
しかし一致の定理の仮定は「零点集合が領域D内に集積点を持つ」ことである。
いまのD=C∖{0}において、集積点の候補である0はDに属していない。
D内のどの点も零点の集積点にはなっていないので、定理は適用できない。
実際fは恒等的に0ではなく、例えばf(2)=sin2π=1である。
集積点が領域の外(この場合は特異点)にあると、零点がいくら集まっていても関数を潰すことはできない。
z=0の近くでfが激しく振動していることの現れでもある。
(この種の特異点は第8章の孤立特異点の分類で真性特異点と呼ぶことになる。ここでは名前を知らなくてよい。)