冪級数の項別微分と項別積分
冪級数で定まる関数は、収束円板の内部で項ごとに微分・積分してよい。
無限和と微分・積分の順序交換が必要になるが、広義一様収束がこれを保証する。
結果として、冪級数で定まる関数は収束円板の内部で何回でも微分可能であることが分かる。
項別微分
冪級数の項別微分
冪級数f(z)=n=0∑∞anznの収束半径がR>0であるとする。
このときfは収束円板∣z∣<R上で正則であり
f′(z)=n=1∑∞nanzn−1=n=0∑∞(n+1)an+1znが成り立つ。
右辺の冪級数の収束半径もRである。
導関数の収束半径が変わらないことは、コーシー・アダマールの公式から
n→∞limsupnn∣an∣=n→∞limsupn∣an∣
(nn→1による)として確かめられる。
この定理を繰り返し適用すると、fは収束円板上で何回でも微分可能であることが従う。
連続性
まずfが連続であることを見ておこう。
∣z∣,∣a∣≤r<Rとすると
∣f(z)−f(a)∣≤n=0∑∞∣an∣∣zn−an∣≤∣z−a∣n=1∑∞n∣an∣rn−1
となる。
ここで
zn−an=(z−a)(zn−1+zn−2a+⋯+an−1)
であり、右側の括弧はn項からなり各項の絶対値がrn−1以下であることを使った。
最後の和は導関数の冪級数の収束半径がRであることから収束する。
よってz→aのときf(z)→f(a)であり、fは連続である。
項別微分の証明の方針
差分商を考えると
z−af(z)−f(a)=n=1∑∞an(zn−1+zn−2a+⋯+an−1)
となる。
ここで右辺は冪級数ではないことに注意する。
各項an(zn−1+zn−2a+⋯+an−1)はzについての多項式であり、これを項とする級数である。
∣z∣,∣a∣≤r<Rの範囲で各項を評価すると、括弧はn項からなり各項の絶対値がrn−1以下だから
an(zn−1+zn−2a+⋯+an−1)≤n∣an∣rn−1
である。
数値級数n∑n∣an∣rn−1は、導関数の冪級数の収束半径がR>rであることから収束する。
したがってワイエルシュトラスのM判定法により、上の級数は∣z∣≤rで一様収束する。
連続関数の一様収束極限は連続だから、右辺はzの連続関数である。
連続だからこそz→aの極限が代入で求まり、項ごとにとることができて
z→alimz−af(z)−f(a)=n=1∑∞an⋅nan−1
となる。
これが求める等式である。
この証明で一様収束を使うのは、極限が連続であることを言うためだけである。
「一様収束すれば微分と極限を交換してよい」という一般則を使っているのではない。
実際その主張は実関数では成り立たない。
項別積分
冪級数の項別積分
収束半径R>0の冪級数f(z)=n=0∑∞anznと、収束円板内の曲線Cに対し
∫Cf(z)dz=n=0∑∞an∫Czndzが成り立つ。
Cはコンパクトなので、その上で冪級数は一様収束する。
線積分の性質として述べた「一様収束する列の項別積分」がそのまま適用できる。
特にF(z)=n=0∑∞n+1anzn+1とおくと、項別微分によりF′=fである。
つまり冪級数で定まる関数は収束円板上に必ず原始関数を持つ。
係数と微分係数の関係
冪級数の係数はテイラー係数
f(z)=n=0∑∞an(z−α)nが収束半径R>0を持つとする。
このとき
an=n!f(n)(α)が成り立つ。
証明
項別微分をk回繰り返すと
f(k)(z)=n=k∑∞n(n−1)⋯(n−k+1)an(z−α)n−kとなる。
ここでz=αとおくと、n=kの項だけが残り
f(k)(α)=k!akを得る。
つまり冪級数展開は、係数が微分係数から一意に定まるという意味で一通りしかない。
このことから、冪級数で定まる関数は解析的である、すなわち自身のテイラー級数に一致することが分かる。