微分係数の積分表示と正則関数の解析性
コーシーの積分公式を用いることで、正則関数の非常に重要な性質である解析性、
つまり何回でも微分できまた冪級数展開可能であるという性質を導くことができる。
微分係数の積分表示
領域Dで正則な関数fは任意の自然数nに対してn階微分可能で、fのn階導関数は
f(n)(z)=2πin!∫C(ζ−z)n+1f(ζ)dζを満たす。
ここでCは、その内部まで含めてDに含まれる円に正の向き(反時計回り)をつけたものであり、zはCの内部の点である。
さらに正則関数はテイラー展開できることもわかる。
正則関数の解析性
領域Dで正則な関数fはa∈Dの周りで冪級数展開可能である。
つまり、あるaの周りで収束する冪級数が存在して、aの近傍のzに対して
f(z)=n=0∑∞an(z−a)nとなる。
その収束半径は、aからDの境界までの距離以上である。
コーシーの積分公式を用いてfの冪級数展開を計算する。
a∈Dとし、aを中心とする半径の小さな円周CとCの内部の点zに対し
f(z)=2πi1∫Cζ−zf(ζ)dζ
である。
まずは被積分関数ζ−z1のz=aを中心とする冪級数展開を計算する。
その上で、無限和と積分の順序が交換できることを用いれば、fの冪級数展開を求めることができる。
ζ−z1=(ζ−a)−(z−a)1=(ζ−a)(1−ζ−az−a)1=ζ−a1×1−ζ−az−a1
となる。
ここで、等比級数の和の公式を用いると、
ζ−az−a<1が成り立つため、
1−ζ−az−a1=(1+ζ−az−a+(ζ−az−a)2+⋯)=n=0∑∞(ζ−a)n(z−a)n
となる。
よって、
ζ−z1=n=0∑∞(ζ−a)n+1(z−a)n
である。
f(z)=2πi1∫Cζ−zf(ζ)dζ=2πi1∫Cn=0∑∞(ζ−a)n+1f(ζ)(z−a)ndζ
Cはコンパクトで、ζ∈Cのときζ−az−aは1より小さい定数で抑えられるから、この級数はC上で一様収束する。
よって無限和と積分の順序を交換できて、
2πi1∫Cn=0∑∞(ζ−a)n+1f(ζ)(z−a)ndζ=2πi1n=0∑∞(∫C(ζ−a)n+1f(ζ)dζ)(z−a)n
よって、
f(z)=2πi1n=0∑∞(∫C(ζ−a)n+1f(ζ)dζ)(z−a)n
である。
微分係数の公式と収束半径
いま得たのは、円Cの中心aにおける展開である。
定理が述べているのはもう少し広いので、残りを埋めておこう。
係数と微分係数の対応。
冪級数展開できる関数は何回でも微分可能であり、項別微分により係数はan=n!f(n)(a)である。
上の展開と見比べれば、中心aについて
f(n)(a)=2πin!∫C(ζ−a)n+1f(ζ)dζ
を得る。
中心以外の点でも同じ円が使えること。
Cの内部の点zをとる。
zを中心とする十分小さい円Czで上の議論を繰り返せば、Czについての積分表示が得られる。
CzとCの間の領域では(ζ−z)n+1f(ζ)が正則なので、コーシーの積分定理により二つの円に沿った積分は等しい。
よってCを使った表示がそのまま成り立つ。
収束半径の下界。
aを中心とする円の半径は、aからDの境界までの距離より小さい範囲で自由に選べる。
どの半径を選んでも係数はn!f(n)(a)で変わらないので、同じ冪級数がそれらすべての円板でfに一致する。
したがって収束半径はaからDの境界までの距離以上である。
D=Cのときは任意の有限半径が取れるので、収束半径は∞である。
微分係数の積分表示を用いた計算
∫Ciz2(z−1)(z−2)1dzを計算する。
ここで、C1はz=0中心で小さな半径を持つ円、C2はz=1中心で小さな半径を持つ円、C3はz=2中心で小さな半径を持つ円、
C4はz=0,1,2全てを囲む大きな半径をもつ円であり、いずれも正の向き(反時計回り)をつける。
またC1,C2,C3の半径は、互いの円が交わらず他の特異点を含まない程度に小さくとる。
C1での積分は、f(z)=(z−1)(z−2)1とみて、微分係数の積分表示を使う。
f(z)=z−21−z−11,f′(z)=−(z−2)21+(z−1)21よりf′(0)=−41+1=43である。
よって
∫C1z2f(z)dz=2πif′(0)=23πiとなる。
C2での積分は、f(z)=z2(z−2)1とみて、コーシーの積分公式により
∫C2z−1f(z)dz=2πif(1)=−2πiとなる。
C3での積分は、f(z)=z2(z−1)1とみて、コーシーの積分公式により
∫C3z−2f(z)dz=2πif(2)=2πiとなる。
C4での積分は、一般的なコーシーの積分定理から求まる。
被積分関数はD=C∖{0,1,2}で正則である。
サイクルC=C4−C1−C2−C3をとると、Dの補集合の各点a=0,1,2に対し、aを囲むのはC4とそれぞれ対応する小円の2つだけなので
n(C,a)=1−1=0である。
大円の外側の点についてはすべての回転数が0である。
よってCはDに関して0にホモローグであり、∫Cf(z)dz=0、すなわち
∫C4=∫C1+∫C2+∫C3=23πi−2πi+2πi=0となる。
C1+C2+C3は離れた3つの円周の形式和であって、1本のつながった閉曲線ではない。
そのため「C4に連続変形できる」とは言えず、根拠はサイクルとホモローグの言葉で述べる必要がある。
0になることは別の見方でも確かめられる。
半径Rの円周上で被積分関数の絶対値はおよそR−4で、円周の長さは2πRだから、
三角不等式による評価はR→∞で0に収束する。
一方この積分値はRによらないので、0でなければならない。