一般的なコーシーの積分定理

これまで長方形・円板・星形領域と、領域の形を限定してコーシーの積分定理を証明してきた。 ここでは領域と閉曲線に対する条件を位相幾何的に定式化し、より一般的な形で定理を述べる。

単連結領域でのコーシーの積分定理

まず直感的に扱いやすい条件から述べる。

単連結領域

領域内の任意の閉曲線が、その領域内に留まったまま11点に連続変形できるとき、その領域を単連結であるという。

星形領域は単連結である。 中心z0z_0に向かって線分に沿って縮めていけばよい。 一方、円板から中心を除いた領域は単連結ではない。 中心を囲む円周は11点に縮められないからである。

単連結領域上で正則な関数は、任意の閉曲線に沿った積分が00になる。 これは星形領域の場合を連続変形で貼り合わせることで得られる。

回転数による定式化

さらに一般の状況を扱うため、いくつか言葉を用意しよう。

回転数

CCを閉曲線とし、a∉Ca\notin Cとする。 CCのaaについての回転数n(C,a)n(C,a)を

n(C,a)=12πi∫Cdzz−an(C,a)=\frac{1}{2\pi i}\int_C\frac{dz}{z-a}

で定義する。

これはCCがaaの周りを反時計回りに何周するかを表す整数である。

整数になる理由を述べておく。 円周について∫Cdzz=2πi\displaystyle\int_C\frac{dz}{z}=2\pi iを計算しただけでは、一般の閉曲線について整数であることの証明にはならない。

CCのパラメータづけをγ:[0,1]→C\gamma:[0,1]\to\Cとする。 γ(t)−a\gamma(t)-aの偏角をttについて連続に選んだものをθ(t)\theta(t)とすると

∫Cdzz−a=[log⁡∣γ(t)−a∣+iθ(t)]01\int_C\frac{dz}{z-a}=\Bigl[\log\lvert\gamma(t)-a\rvert+i\theta(t)\Bigr]_0^1

である。 CCは閉曲線なのでγ(1)=γ(0)\gamma(1)=\gamma(0)であり、絶対値の項は打ち消し合う。 残るのはi(θ(1)−θ(0))i(\theta(1)-\theta(0))であるが、γ(1)−a\gamma(1)-aとγ(0)−a\gamma(0)-aは同じ複素数だから、偏角の差は2π2\piの整数倍である。 よってn(C,a)n(C,a)は整数になる。

サイクルについては、閉曲線の整数係数の和C=∑kmkCkC=\sum_k m_kC_kに対し

n(C,a)=∑kmk n(Ck,a)n(C,a)=\sum_k m_k\,n(C_k,a)

と定める。 整数の和なのでこれも整数である。

回転数の例

CCを反時計回りの単位円周とすると

n(C,0)=1,n(C,2)=0n(C,0)=1,\quad n(C,2)=0

である。

n(C,0)=1n(C,0)=1は上の計算そのものである。 n(C,2)=0n(C,2)=0は、1z−2\dfrac{1}{z-2}が単位円周とその内部を含む円板∣z∣<2\lvert z\rvert<2で正則なので、円板に対するコーシーの積分定理から従う。

閉曲線の形式的な整数係数の和をサイクルという。 サイクルC=∑kmkCkC=\displaystyle\sum_km_kC_k(mkm_kは整数)に沿った積分は

∫Cf(z)dz=∑kmk∫Ckf(z)dz\int_Cf(z)dz=\sum_km_k\int_{C_k}f(z)dz

で定義する。 係数−1-1は向きを逆にすることに対応する。 回転数も同様にn(C,a)=∑kmkn(Ck,a)n(C,a)=\displaystyle\sum_km_kn(C_k,a)とする。

ここで注意したいのは、サイクルは閉曲線たちの形式和であって、それ自体が11本のつながった閉曲線とは限らないことである。 離れた位置にある複数の円周の和を11本の曲線に「連続変形する」という言い方はできない。 複数の曲線をまとめて扱いたいときは、この形式和とホモローグの言葉を使う。

00にホモローグ

領域DD内のサイクルCCがDDに関して00にホモローグであるとは、DDの補集合の任意の点aaに対しn(C,a)=0n(C,a)=0であることをいう。

つまり、CCがDDの外側の点を一つも囲んでいないという条件である。

ホモローグ00の例

CCを反時計回りの単位円周とする。

D=CD=\Cのとき、補集合は空なのでCCはDDに関して00にホモローグである。

一方D=C∖{0}D=\C\setminus\{0\}のときは、0∉D0\notin Dかつn(C,0)=1≠0n(C,0)=1\neq0なので、CCはDDに関して00にホモローグではない。

一般的なコーシーの積分定理

この概念を用いると、コーシーの積分定理は次の形に述べられる。

一般的なコーシーの積分定理

ffが領域D⊂CD\subset\Cで正則とする。 DDに関して00にホモローグな任意のサイクルCCに対し

∫Cf(z)dz=0\int_Cf(z)dz=0

が成り立つ。

ここでは証明はしない。

重要なのは、コーシーの積分定理を成立させるために「00にホモローグ」という位相幾何的な条件が必要になるという点である。 DDが単連結ならばDD内のすべてのサイクルが00にホモローグなので、単連結領域の場合はこの定理の特別な場合になっている。

逆にこの条件が外れると定理は成り立たない。 D=C∖{0}D=\C\setminus\{0\}でf(z)=1zf(z)=\dfrac{1}{z}、CCを単位円周とすると、CCは00にホモローグでなく、実際

∫Cdzz=2πi≠0\int_C\frac{dz}{z}=2\pi i\neq0

である。

演習

八の字曲線の回転数

相異なる22点a,ba, bに対し、aaの周りを反時計回りに11周したあとbbの周りを時計回りに11周する八の字型の閉曲線をCCとする。 n(C,a)n(C,a)とn(C,b)n(C,b)を求めよ。

解答

CCはaaの周りの反時計回りの小円CaC_aと、bbの周りの時計回りの小円CbC_bをつないだものと連続変形で同一視できる。 回転数は積分で定義されており、曲線の分割について加法的だから

n(C,a)=n(Ca,a)+n(Cb,a),n(C,b)=n(Ca,b)+n(Cb,b)n(C,a)=n(C_a,a)+n(C_b,a),\qquad n(C,b)=n(C_a,b)+n(C_b,b)

である。

CaC_aはaaを反時計回りに11周するのでn(Ca,a)=1n(C_a,a)=1、bbはCaC_aの外部なのでn(Ca,b)=0n(C_a,b)=0である。 CbC_bは時計回りなのでn(Cb,b)=−1n(C_b,b)=-1、aaは外部なのでn(Cb,a)=0n(C_b,a)=0である。

よってn(C,a)=1n(C,a)=1、n(C,b)=−1n(C,b)=-1である。

回転数が点ごとに違う値をとること、負にもなることが要点である。 CCはC∖{a,b}\C\setminus\{a,b\}において00にホモローグではない。