複素数とその四則演算
複素数とは
複素数とは、実数x,yと虚数単位iを用いて
z=x+yi
と表される数のことである。
xをzの実部といいRe(z)で、yをzの虚部といいIm(z)で表す。
複素数全体の集合をCと表す。
z∈Cであれば、一意的に実数x,yを用いてz=x+yiと表すことができる。
二つの複素数が一致することは、実部と虚部が共に等しいこととして定義する。
つまり、z=x+yi,z′=x′+y′iについて、z=z′であることとx=x′かつy=y′であることが同値である。
したがって、複素数全体の集合は、集合としては実数の対全体の集合R2=R×Rと同一視できる。
この集合に四則演算を、特にi2=−1となるように複素数の積を定める。
加法・減法・乗法
足し算と引き算はベクトル空間R2のものと同じである。
つまり実部同士と虚部同士をそれぞれ足し引きすればよい。
(a+bi)+(c+di)=(a+c)+(b+d)i(a+bi)−(c+di)=(a−c)+(b−d)i
この定義のもとで、a+bi=(a+0i)+(0+bi)である。
掛け算は次のように定める。
(a+bi)(c+di)=(ac−bd)+(ad+bc)i
これは、i2=−1かつ分配法則を満たすという条件で特徴づけられる。
この定義のもとで、bi=(b+0i)(0+1i)である。
実ベクトル空間としてのCと積の行列表示
CはR上のベクトル空間である。
ベクトル空間であるためには、加法だけでなく実数によるスカラー倍も要る。
スカラー倍は実部と虚部をそれぞれ実数倍するもので、r∈Rに対しr(c+di)=rc+rdiである。
これは新たに定める必要はない。
実数rを複素数r+0iとみて積の定義を当てはめると
(r+0i)(c+di)=(rc−0⋅d)+(rd+0⋅c)i=rc+rdi
となり、スカラー倍はすでに積の定義から決まっている。
この加法とスカラー倍について、1,iは基底である。
すなわち任意のz∈Cはz=x⋅1+y⋅i(x,y∈R)と一意的に表される。
固定した複素数α=a+biをかける写像z↦αzはR線形写像である。
実際、任意のz,w∈Cとr∈Rに対しα(z+w)=αz+αwおよびα(rz)=r(αz)が成り立つ。
基底1,iに関するこの線形写像の行列表示を求めよう。
α⋅1=a+bi、α⋅i=−b+aiであるから、
(xy)↦(ab−ba)(xy)=(ax−bybx+ay)
となる。すなわち、複素数α=a+biによる乗法は行列(ab−ba)で表される。
この行列はこの先に何度も現れるが、見る角度が章ごとに変わる。
ここでは積という演算を行列で書き表した。
第2章では一次関数を平面の写像として見るときに、
第3章では微分が満たすべき制約として(コーシーリーマンの方程式)現れる。
割り算
以下c+di=0とする。
割り算をどう定義するかを考えよう。
(a+bi)/(c+di)=(a+bi)×c+di1
とすることで、逆数を定めればよいことになる。
では逆数はどう定めるかというと、改めてa+bi=0として
(a+bi)(x+yi)=(ax−by)+(ay+bx)i=1
となる複素数x+yiがa+biの逆数であるから、この方程式を解けばよい。
積の行列表示を用いれば、これは連立一次方程式
(ab−ba)(xy)=(10)
を解くことに帰着する。x=a2+b2a,y=a2+b2−bとなり、
a+bi1=a2+b2a+a2+b2−bi
とわかる。
これは、行列(ab−ba)の逆行列を求めていると見ることもできる。
この行列の行列式はa2+b2で、a+bi=0なら0でないから逆行列が存在し、
(ab−ba)−1=a2+b21(a−bba)
である。
その第1列が上で求めたx,yにあたる。
右辺の行列は複素数a2+b2a−biの積の行列表示になっており、逆数の行列表示が逆行列になっている。
あるいは、(a+bi)(a−bi)=a2+b2となることを利用して、分子分母にa−biをかけると考えることもできる。
四則演算の性質
この四則演算について、通常の実数の和や積と同様に結合法則や交換法則、分配法則が成り立つことが証明できる。
すなわちCは体をなす。
四則演算の計算
1−i1+iをa+bi(a,bは実数)の形で表せ。
解答
分母分子に1+iを掛けると
1−i1+i=(1−i)(1+i)(1+i)2=22i=iである。
発展:多項式の剰余としての複素数
複素数の積の定義は、多項式の計算から自然に出てくるものだと見ることもできる。
この節は発展的な内容なので、読み飛ばしても後の議論に差し支えない。
実数係数の1変数tの多項式を考え、t2+1で割った余りが等しいものを同じとみなす。
すなわちf(t)−g(t)がt2+1で割り切れるとき
f(t)≡g(t)(modt2+1)
と書き、fとgを区別しない。
この合同は和・差・積と両立する。
例えばf≡f′、g≡g′ならば、fg−f′g′=f(g−g′)+(f−f′)g′はt2+1で割り切れるのでfg≡f′g′である。
どの多項式も1次以下の多項式と合同になる。
多項式f(t)をt2+1で割ると、商q(t)と余りr(t)によって
f(t)=q(t)(t2+1)+r(t)
と書け、余りの次数は割る式の次数2より小さい。
よってr(t)=a+bt(a,b∈R)の形であり、f(t)≡a+btとなる。
異なる1次以下の多項式どうしは合同にならない。
a+bt≡c+dtとすると、差(a−c)+(b−d)tがt2+1で割り切れる。
次数1以下の多項式が2次式で割り切れるのは0のときだけなので、a=cかつb=dである。
したがって、この合同の意味で多項式を考えることは、1次以下の多項式a+btを考えることと同じである。
集合としては係数の組(a,b)全体、すなわちR2と同じものになる。
積が複素数の積になる。
和と差は係数ごとの計算なので、複素数の和・差と同じである。
要点は積である。
(a+bt)(c+dt)=ac+(ad+bc)t+bdt2
であり、t2=(t2+1)−1≡−1だから
(a+bt)(c+dt)≡(ac−bd)+(ad+bc)t
となる。
これは複素数の積(a+bi)(c+di)=(ac−bd)+(ad+bc)iの定義そのものであり、tがiの役割を果たしている。
実際t2≡−1であり、tは「2乗すると−1になるもの」になっている。
このように、複素数とは実数係数の多項式をt2+1で割った余りで計算したものだと考えることができる。
これを代数学の言葉では剰余環R[t]/(t2+1)と呼ぶ。
この見方ではiは変数tそのものであり、i2=−1は約束ではなく計算の結果として出てくる。