複素共役と絶対値

複素共役

複素共役

z=a+bi∈Cz=a+bi\in\Cに対し、zˉ=a−bi\bar{z}=a-biをzzの複素共役という。

複素共役は2回行うと元に戻る。 つまり、zˉˉ=z\bar{\bar{z}}=zである。

複素共役をとる操作と四則演算は順序を入れ替えることができる。 すなわち以下が成り立つ。

α±β‾=α‾±β‾αβ‾=α‾β‾(αβ)‾=α‾β‾ \overline{\alpha\pm\beta}=\overline{\alpha}\pm\overline{\beta}\\\\ \overline{\alpha\beta}=\overline{\alpha}\overline{\beta}\\\\ \overline{\left(\dfrac{\alpha}{\beta}\right)}=\dfrac{\overline{\alpha}}{\overline{\beta}}

zzが実数であることは、z=zˉz=\bar{z}と同値である。

zzとzˉ\bar{z}からzzの実部と虚部を復元できる。

Re⁡(z)=z+z‾2Im⁡(z)=z−z‾2i \Re(z)=\frac{z+\overline{z}}{2}\\\\ \Im(z)=\frac{z-\overline{z}}{2i}

補足:複素共役の特徴づけ

複素共役は、次の22通りの見方で特徴づけることもできる。 以下z=a+biz=a+biは実数でない、すなわちb≠0b\neq0とする。

方程式の解として。 zzを解にもつ実数係数の多項式のうち、次数が最小で最高次の係数が11のものはただ一つに定まり、それは

t2−2at+(a2+b2)t^2-2at+(a^2+b^2)

である。

実際、この22次式にt=zt=zを代入すると(z−a)2+b2=(bi)2+b2=0(z-a)^2+b^2=(bi)^2+b^2=0となる。 zzは実数でないので、11次以下の実数係数の多項式でzzを解にもつものは00しかない。 したがって次数の最小値は22である。 最高次の係数が11の22次式が22つあれば、その差はzzを解にもつ11次以下の実数係数の多項式なので00であり、22つは一致する。

この22次方程式のもう一つの解がzˉ\bar zである。 実際(zˉ−a)2+b2=(−bi)2+b2=0(\bar z-a)^2+b^2=(-bi)^2+b^2=0である。

和と積として。 zzとの和と積がともに実数になる複素数wwはただ一つであり、それがzˉ\bar zである。

zˉ\bar zがこの条件を満たすことはz+zˉ=2az+\bar z=2a、zzˉ=a2+b2z\bar z=a^2+b^2から分かる。 逆に、z+wz+wが実数ならwwの虚部は−b-bなのでw=c−biw=c-bi(c∈Rc\in\R)と書ける。 このときzw=(ac+b2)+b(c−a)izw=(ac+b^2)+b(c-a)iが実数であるにはb(c−a)=0b(c-a)=0、すなわちb≠0b\neq0よりc=ac=aでなければならない。 よってw=a−bi=zˉw=a-bi=\bar zである。

22つの特徴づけの関係。 この22つは解と係数の関係で結びついている。 22次方程式t2−2at+(a2+b2)=0t^2-2at+(a^2+b^2)=0の22つの解z,zˉz, \bar zの和は2a2a、積はa2+b2a^2+b^2で、どちらも実数である。 逆に、和がss、積がppである22数はt2−st+p=0t^2-st+p=0の22つの解になる。 「zzと組んで和と積が実数になる相手」と「zzを解にもつ最小の実数係数の方程式のもう一つの解」は、同じものを別の角度から見ているのである。

zzが実数の場合は、和と積が実数になる相手は任意の実数なので一つには決まらない。 b≠0b\neq0という仮定はそのために置いている。

絶対値

絶対値

複素数z=x+yiz=x+yiに対し、

∣z∣=zz‾=x2+y2\lvert z\rvert=\sqrt{z\overline{z}}=\sqrt{x^2+y^2}

をzzの絶対値という。

∣z∣=1\lvert z\rvert=1のとき、zˉ=1z\bar{z}=\dfrac{1}{z}である。

三角不等式

三角不等式

任意の複素数z,wz, wに対し、

∣z+w∣≤∣z∣+∣w∣\lvert z+w\rvert\leq\lvert z\rvert+\lvert w\rvert

が成り立つ。

証明で使う性質をまとめておく。

証明

∣z+w∣2=(z+w)(z+w)‾=(z+w)(zˉ+wˉ)=∣z∣2+zwˉ+zˉw+∣w∣2\lvert z+w\rvert^2=(z+w)\overline{(z+w)}=(z+w)(\bar{z}+\bar{w})=\lvert z\rvert^2+z\bar{w}+\bar{z}w+\lvert w\rvert^2である。 ここでzwˉ+zˉw=zwˉ+zwˉ‾=2Re⁡(zwˉ)z\bar{w}+\bar{z}w=z\bar{w}+\overline{z\bar{w}}=2\Re(z\bar{w})であり、 Re⁡(zwˉ)≤∣zwˉ∣=∣z∣∣wˉ∣=∣z∣∣w∣\Re(z\bar{w})\leq\lvert z\bar{w}\rvert=\lvert z\rvert\lvert\bar w\rvert=\lvert z\rvert\lvert w\rvertであるから、

∣z+w∣2≤∣z∣2+2∣z∣∣w∣+∣w∣2=(∣z∣+∣w∣)2\lvert z+w\rvert^2\leq\lvert z\rvert^2+2\lvert z\rvert\lvert w\rvert+\lvert w\rvert^2=(\lvert z\rvert+\lvert w\rvert)^2

両辺非負であるから、平方根をとって∣z+w∣≤∣z∣+∣w∣\lvert z+w\rvert\leq\lvert z\rvert+\lvert w\rvertを得る。

幾何的には、これは「三角形の一辺の長さは他の二辺の長さの和以下」ということに他ならない。 複素平面上で0,z,z+w0, z, z+wを頂点とする三角形を考えると、辺00からz+wz+wの長さが∣z+w∣\lvert z+w\rvert、辺00からzzの長さが∣z∣\lvert z\rvert、辺zzからz+wz+wの長さが∣w∣\lvert w\rvertである。 等号はzzとwwの一方が00であるか、または同じ方向を向くとき(すなわちw=tzw=tzなるt≥0t\geq 0が存在するとき)に成立する。 z=0z=0のときはw=tzw=tzと書けないので、場合を分けておく必要がある。

また、逆向きの不等式∣z+w∣≥∣z∣−∣w∣\lvert z+w\rvert\geq\lvert z\rvert-\lvert w\rvertも成り立つ。 三角不等式は距離や位相に関連して、収束などを議論する上で重要な性質である。 例えば第4章の積分の評価では、積分の絶対値を三角不等式で上から抑え、その上界が00に収束することから積分が00に収束することを示す。 この論法は後の章で積分を計算するときに繰り返し使う。