冪級数

このセクションでは冪級数を扱う。 収束半径と広義一様収束を調べ、項別微分・項別積分が正当化できることを見る。

その上で、コーシーの積分公式から正則関数が冪級数展開できること(解析性)を導く。 これは正則関数の理論の中心的な定理で、実関数の微分積分とは大きく異なる現象である。 実関数では何回でも微分可能でもテイラー展開できるとは限らないが、複素関数では開集合上で11回微分できれば何回でも微分でき、しかも冪級数に展開できてしまう。

「開集合上で」が要ることに注意しよう。 正則関数の定義の演習で見るように、f(z)=∣z∣2f(z)=\lvert z\rvert^2はz=0z=0でのみ複素微分可能であり、原点のどんな近傍でも正則でなく冪級数にも展開できない。

最後に初等関数の冪級数展開を計算し、一致の定理と解析接続を扱う。

冪級数とは

α∈C\alpha\in\Cに対し、α\alphaを中心とする冪級数とは、複素数列an∈Ca_n\in\Cを用いて定まる

∑n=0∞an(z−α)n\sum_{n=0}^\infty a_n(z-\alpha)^n

のことをいう。

これがzzで収束するとは、部分和の極限

lim⁡N→∞∑n=0Nan(z−α)n\lim_{N\to\infty}\sum_{n=0}^Na_n(z-\alpha)^n

が存在することをいう。

等比級数

すべてのnnに対してan=1a_n=1とすると、00を中心とする冪級数

∑n=0∞zn=1+z+z2+⋯\sum_{n=0}^\infty z^n=1+z+z^2+\cdots

が得られる。

これは∣z∣<1\lvert z\rvert<1の範囲で収束し、その極限値は11−z\dfrac{1}{1-z}である。 ∣z∣≥1\lvert z\rvert\geq1では発散する。

絶対収束

絶対収束

冪級数∑n=0∞anzn\displaystyle\sum_{n=0}^\infty a_nz^nが絶対収束するとは、

∑n=0∞∣an∣∣z∣n\sum_{n=0}^\infty\lvert a_n\rvert\lvert z\rvert^n

が収束することをいう。

絶対収束すれば収束する

冪級数がzzで絶対収束するならば、zzで収束する。

証明

三角不等式より、n≤mn\leq mに対して

∣∑k=nmakzk∣≤∑k=nm∣ak∣∣z∣k\left\lvert\sum_{k=n}^{m}a_kz^k\right\rvert\leq\sum_{k=n}^{m}\lvert a_k\rvert\lvert z\rvert^k

である。

絶対収束の仮定から右辺はいくらでも小さくできる。 より正確には、任意のϵ>0\epsilon>0に対しある自然数NNが存在し、m≥n≥Nm\geq n\geq Nならば

∑k=nm∣ak∣∣z∣k<ϵ\sum_{k=n}^{m}\lvert a_k\rvert\lvert z\rvert^k<\epsilon

となる。

したがって部分和sn=∑k=0nakzks_n=\displaystyle\sum_{k=0}^na_kz^kはコーシー列である。 C\Cは完備なのでsns_nは収束する。

冪級数の和と積

∑nanzn\displaystyle\sum_na_nz^nと∑nbnzn\displaystyle\sum_nb_nz^nがともにzzで絶対収束するとする。 このとき定数c∈Cc\in\Cに対し

∑n(an+bn)zn,∑ncanzn\sum_n(a_n+b_n)z^n,\qquad \sum_n ca_nz^n

も絶対収束し、その値はそれぞれ和とスカラー倍になる。

積については、コーシー積

(∑nanzn)(∑nbnzn)=∑n(∑k=0nan−kbk)zn\left(\sum_na_nz^n\right)\left(\sum_nb_nz^n\right)=\sum_n\left(\sum_{k=0}^{n}a_{n-k}b_k\right)z^n

が成り立つ。 右辺も絶対収束し、この等式は絶対収束のもとで正当化される。 絶対収束していれば項の順序を自由に入れ替えられることが根拠である。

目次

  1. 冪級数の収束半径
  2. 広義一様収束
  3. 冪級数の項別微分と項別積分
  4. 微分係数の積分表示と正則関数の解析性
  5. 初等関数の冪級数展開
  6. 一致の定理と解析接続